宮城学院女子大学学芸学部日本文学科では、日本文学会と共催で、尾崎世界観氏 × 池上冬樹氏の作家特別対談を開催します。約3年ぶりの開催です。
日本文学科では、年に2回、作家特別対談を開催してきました。2014年度に開始した作家対談にはこれまで、唯川恵氏、穂村弘氏、中村文則氏、角田光代氏、東山彰良氏、村田沙耶香氏、小池昌代氏、三浦しをん氏、平松洋子氏、佐伯一麦氏をお迎えしました。また、2019年度には宮城学院女子大学開学70周年を記念し、せんだい文学塾と共催で、角田光代氏、井上荒野氏、江國香織氏をゲストに「せんだい文学塾 in 宮城学院」を開催しています。
作家特別対談は2018年度で一区切りを迎えたこともあり、一度終了しましたが、この夏久しぶりに復活することになりました。
ゲストは今年4月にメジャーデビュー10周年を迎えたクリープハイプのフロントマン、尾崎世界観氏。司会および聞き役を務めるのは池上冬樹氏(日本文学科非常勤講師)。尾崎世界観氏は著書『母影』が第164回芥川賞の候補に選ばれた小説家でもあります。今回は小説家 尾崎世界観氏を宮城学院女子大学にお迎えします。
宮城学院女子大学学芸学部日本文学科主催「作家特別対談」
日時:7月1日(金) 16時半~17時半 開場:16時 開演:16時半
会場:小ホールから礼拝堂へ変更
司会&聞き役:池上冬樹 氏(日本文学科非常勤講師)
ゲスト:尾崎世界観 氏
*学内限定公開(在学生、教職員、宮城学院中学校高等学校の生徒のみ入場可)
*全席自由 / 入場無料 / 事前申し込み不要
【6/25注意事項追加】
参加を希望される学内の皆さんへ。日本文学科よりお伝えしたい注意事項がございます(在学生にはユニバーサルパスポート経由でお伝えします)。
・会場を変更します。
・参加するには学生証の提示が必要となります。会場入口で日本文学科教職員が確認しますので忘れないようにご注意ください。宮城学院中学校高等学校の生徒は、制服で確認および入口でクラスとお名前を控えさせていただきます。すべてコロナ感染対策の一環です。感染者がまた増えてきているというニュースもございますのでどうかご協力をお願いします。
・当日はかなりの暑さが予想されています。体温調節できるような服装でおいでください。
・何よりも、体調管理を万全にしておいでください。
withコロナでの開催ということで今回は学内限定公開となります。学外者は入れません。ご了承ください。在学生につきましては学科、学年は問いません。直接会場にお越しください。特別対談は感染予防を徹底したうえで開催いたしますが、学内では以下の感染対策に引き続きご協力ください。
・マスク着用をお願いいたします。
・発熱、咳、くしゃみなど風邪の症状がある方、体調のすぐれない方のご来場はご遠慮ください。
・こまめな手洗い・手指消毒にご協力ください。
関連イベントとして
宮城学院女子大学図書館 × 日本文学科
特設展示「尾崎世界観の世界」(仮) 6月13日(月)-7月1日(金) 第一閲覧室
宮城学院生協 × 日本文学科
「尾崎世界観ブックフェア」 6月中旬より開催中 大学生協書籍コーナー
宮城学院女子大学日本文学会 × 日本文学科
特設展示「尾崎世界観を読む」 6月中旬より開催中 日本文学科図書室 *日文生限定
も開催しています。こちらにもぜひ足をお運びください。
宮城学院女子大学の皆さん、ご来場お待ちしております。
■作家・尾崎世界観について
すごい文筆家がいるなと思った。2016年10月、尾崎世界観による窪美澄『よるのふくらみ』(新潮文庫)の文庫解説を読んだ時だ。当時僕は10年近く「小説すばる」に「池上冬樹のこの文庫解説がすごい!」を連載中で、評論家たちの手慣れた解説に飽いて、新しいライターをずっと探していたのだが、そのとき尾崎世界観と出会った。
まず、「ビジネスホテルのユニットバスで、お湯につかりながら「よるのふくらみ」を読む」という書き出しの文章に惹きつけられた。書評家たちには絶対に書けない文章だ。尾崎はさらに、本書を読む場所は、高級ホテルでも旅館でも自宅の風呂でも駄目で、一番あっているのはビジネスホテルのユニットバスだという。なぜなら視界が広がらなくて、狭くて、息苦しくて、でも慣れてくると気持ちよさもじんわりと生まれてくる、というのだが、これはもうまさに窪美澄の世界ではないか! と思った。さらに窪美澄の小説は「悪い奴を探す推理小説ではなく、悪い奴を許す生理小説。誰かの罪が暴かれる瞬間より、誰かの罪が許される瞬間に立ち会える」などと鮮やかに分析するのだが、こんなこと評論家は誰一人書いていなかった。思いつきもしなかった。いったい尾崎世界観とは何者なのか? と思った。こんなに書ける人がいるなんて知らなかった。知らない自分が恥ずかしかった。
検索をかけたら、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル。※1970年代前後に活躍したアメリカの伝説的なロックバンド)のジョン・フォガティみたいな髪形の男性が出てきて驚いた。「クリープハイプ」というバンドのギター&ヴォーカル担当で、けっこう有名ということもわかった。そうか、ミュージシャンなのかと思った。文庫解説で、ライヴでの体験を語っているのでミュージシャンとは想像がついていたが、若手のミュージシャンがここまで書けるとは思わなかった。この人はライターとしても成功するし、大いなる評価を得るだろうと思った。
実際本棚にあった『祐介』(文藝春秋、2016年6月。現在文春文庫)をすぐに読んで確信した。売れないバンドマンの猥雑な日常を性的な夢や奇矯な人物を駆使して描いているのだが、比喩を多用して深く掘り下げ、混沌たる普遍的な精神の風景を捉えていて、実に秀逸。又吉直樹がたまたま芸人をしている作家だとするなら、尾崎世界観もたまたまバンド活動をしている作家なのではないかと思ったほど。
でも、いちばん驚いたのは、翌年17年5月に刊行された『苦渋100パーセント』(文藝春秋。現在文春文庫)だった。これには心底しびれた。すぐに時事通信に売り込んで、書評を書いた。
「クリープハイプ」のボーカル&ギター担当として各地をとびまわる男の日常なのに、知らず知らず自分に引き付けてしまうのは、ここでも巧みに比喩が用いられて、個人的なライブの記録が、別のものにたとえられて、感覚や感情を喚起させられるからだ。喜怒哀楽にみちた出来事や体験が、日々の句読点となり、読者に生きる手触りを与えてくれる。若者らしく自意識のお化けの部分もあるけれど、比喩にみちたユーモアで対象化されて、滑稽さが際立ち、節々で微苦笑が生まれる。これはもう日記文学の新たな収穫だろうと思った。
僕はさっそく宮城学院女子大学の創作の授業で、テキストとして使ったら、学生たちの受けもたいへんいい。「クリープハイプ」の音楽もいいけれど、文章もいいですね! と昂奮してくれる。そして、尾崎世界観ってすごい作家だったんですね! とも。
そう、作家なのだ。平易な文章なのに喚起力にあふれ、ユーモラスで、リズミカルで、実に調子がいい。調子がいいのに、ちゃんとメリハリがあり、生き生きとしている。いまでは、武田百合子や佐伯一麦の日記文学とともに、尾崎世界観の『苦渋100パーセント』がテキストの定番になったし、いちだんと描写の密度が濃い芥川賞候補の『母影(おもかげ)』(新潮社、2021年1月)も、いずれ授業でとりあげたいと思っている。それほど尾崎世界観の文章は刺激的で、若い学生たちをいたるところで大いにそそのかすところがある。
7月1日、その辺の魅力の源をたっぷりとお聞きしたいと思っている。もちろん音楽と文学の関係についてもうかがいます。ぜひトークショーにいらしてくださいませ!
(池上冬樹)
▼尾崎世界観(おざき せかいかん) 氏
1984年東京都生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のフロントマン。2012年メジャーデビュー。2016年、小説『祐介』(文藝春秋)を上梓。2021年には『母影』(新潮社)が第164回芥川賞の候補に。著書はほかに『苦汁100%』、『苦汁200%』、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』など。この春には初めての歌詞集となる『私語と』を刊行。
▼池上冬樹氏(いけがみ ふゆき) 氏
1955年山形市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。週刊文春、小説すばる、共同通信、時事通信、産経新聞ほかで活躍中。2004年から3 年間朝日新聞の書評委員を務める。文庫解説は450 冊。書評活動のかたわら文学賞の予選委員・下読みを多数担当。2014年度からは日本文学科で「創作論」の授業を担当。19年度より東北芸術工科大学芸術学部文芸学科教授。「山形小説家(ライター)講座」、仙台の「せんだい文学塾」の世話役も務める。著書は『ヒーローたちの荒野』、『週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 [海外編] 名作を探せ!』、訳書はリチャード・スターク『悪党パーカー/怒りの追跡』など。編著に『ミステリ・ベスト201 日本篇』ほか多数。
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