どんどん気になる日本語
澤 邉 裕 子(日本文学科 教授)
「チャクドンゴ、すぐにかきまぜてください。」
チャクドンゴ・・・?
耳で聞いて、皆さんはすぐどんな意味かわかりますか。
では、
「チャクセキゴ、すぐ水を頼んだ。」
おや、これはわかりそうですね。そう、漢字にすれば「着席後」。
では、チャクドンゴは・・・。
ある日、ラーメン屋さんに入ってメニューを見ていると
「油そば 着丼後、すぐにかきまぜてください」
と油そばのおいしい食べ方について説明が書いてある紙がおいてありました。
耳で「チャクドンゴ」と聞くと「?」となりますが、漢字を見ると「ああ!」となりますよね。
実は、わたしは「着丼」という言葉をそのお店で初めて知りました。
国語辞書には載っていません。ネットで調べてみると、ずいぶん前からグルメ専門のWEBサイトではよく使われている俗語で、「お店で注文したラーメンが自分の席に到着すること」という意味だそうです。漢字を見れば、意味は確かに推測できます。漢字の力は偉大ですね(しかし、漢字がわからない子どもや外国人の方には難しすぎる言葉ですね)。
ところで皆さんは、「着~」という言葉、何が思いつきますか。
ここで仲間外れクイズをしてみたいと思います。この中で一つ、語の構成が違うものを選んでみましょう。
- 着地
- 着陸
- 着水
- 着信
答えは、④「着信」です。「着信」の意味は、「手紙・電報・電話・電子メールなどの通信が届くこと」。「信が届く(着く)」という構成です。他の①~③は、「地に着く」「陸に着く」「水(の上)に着く」で、「到着点」である「地」、「陸」「水」という語が「着」のあとに来る構成です。俗語の「着丼」はどちらと同じ語構成かと言えば、「丼が届く(着く)」なので、「着信」と同じ構成ということがわかります。同じ「着~」という熟語でも構成が違うものがあるというのは面白いですね。
ちなみに、私は「着〇〇」という言葉を思い浮かべたとき、真っ先に出てきたのが「着メロで」でした。スマホ世代の人々にはきっとわからない「着メロ」。2021年12月に発売された新しい『三省堂 国語辞典』で、この「着メロ」という言葉が辞書からなくなったと聞きました。時代によって言葉は移り変わりますが、辞書から消える言葉、追加される言葉を知ると時代のこともよくわかります。
最後に、「着丼」の「~丼」のほうに焦点を当ててみましょう。
「~丼」と言えば、皆さん、どんなものを思い浮かべますか。「かつ丼」、「親子丼」、「天丼」、「牛丼」などなど、きっとおいしそうな丼物を思い浮かべますよね。わたしもそうなのですが・・・
先日、仙台フォーラスで開催されていた「食品サンプル展」でこんな作品を見つけました。
なんと「壁丼」です!
「壁ドン」(これも新しい言葉)からの自由な発想力に感動してしまいました。もちろん、丼ものもとてもリアルでおいしそうでした・・・。
*元祖食品サンプル屋の社員さんの作品だそうです。
今回は「着丼」という言葉から日本語ウォッチングしてみました。日本語の創造性の豊かさに改めて気付いた気がします。皆さんもぜひ、面白い日本語探しをしてみてください。「どんどん」日本語が気になってきますよ!