現代ビジネス学科の市野澤潤平教授(文化人類学/観光学)が、2024年度の観光学術学会賞を受賞しました。
受賞作となったのは、2023年にナカニシヤ出版から刊行された『被災した楽園:2004年インド洋津波とプーケットの観光人類学』です。本書は、国際的に著名なタイのプーケット島のビーチリゾート・エリアが、2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震による津波に被災したありさま、およびその災害の影響が同地の観光産業に長期的な影響(特に経済的な二次災害)を及ぼしていった過程を、断続的に記録する民族誌的著作です。観光地プーケットと2004年インド洋津波災害(の残響)との約10年にわたる関わりの軌跡を、2022年現在の視点から記述されたエピローグを含めて、全8章構成で描き出しています。
本研究の特徴としては、大規模災害に被災した観光業集積の状況推移を発災直後から10年間にわたって追い続けた民族誌であり、研究調査の対象自体が稀少であること。災害を長期的に捉えた人類学的なモノグラフは数多いが、本書は被災地を「観光地」として捉え、一貫して「観光(業/ビジネス)」の観点から描写・考察を行っている点で、類例を見ない――すなわち「観光✕災害」を正面から問題として取り上げた独自性/新規性があること。観光産業集積という特異な経済社会条件における観光業従事者という限定された属性の人々に観察/考察の焦点を置いたことにより、その具体的記述が、ニュース報道などからは見えにくい、被災地/者の多様性への想像力を涵養する一助となると考えられること。――などが挙げられます。
本書では、単に「観光✕災害」を描写・記録しただけではなく、章ごとに異なる理論的テーマが提示され、観光人類学の従来的な議論をなぞるに留まらない、新たな視座を切り拓く試みがなされています。風評災害、リスク/不確実性、観光活動を通じた自然保護、ダークツーリズム、観光産業集積の災害復興など、いずれのテーマにおいてもプーケットで観察された事実を元に独自の/新たな理論的な考察・知見が積み上げられており、優れた地域研究であると共に観光人類学の研究として高い価値があると評価されました。これらのことから、本書が観光人類学はもとより、観光と災害が重なる領域の民族誌として、観光研究および災害研究全般に果たす学術的貢献は大きいとして、2024年度の観光学術学会賞に選出されました。
ナカニシヤ出版のウェブサイトはこちら
観光学術学会のウェブサイトはこちら
市野澤教授は、2022年と2023年にも、観光学術学会の教育・啓蒙著作賞を受賞しています。