【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の23

【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の23

深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

最初はいいところに生まれ、まぐれ猫となり、宿なし猫となり、どろぼう猫となって、しかし運よくそこから足を洗い、お姉さんに拾ってもらった玉ちゃん。

だが、彼の人生(猫生)はそれで終わるわけではない。

年相応に「盛りがつき」、「恋の季節」を迎えた玉ちゃんは、身ぎれいにして外を出歩き、どうやら似合いの相手を見つけたらしいのだが、人でも猫でも、恋を成就させるのはそう簡単なことではない。

まだ個人という概念もなく、社会全体に身分意識が濃厚だった時代は、やはり、身分や家柄、家格などが違っていたりすると、ゴールにたどり着くのはなかなか難しい。

現代では誰も結婚をゴールだと思っていないかもしれないが、前近代から昭和の中ごろまでは、特に女性にとっては、結婚がゴールだと考えられていた。

江戸期一般庶民の好んで読む草双紙などの戯作でも、見合いに始まり、結納、嫁入り、祝言、出産、お宮参りで幕を閉じる「嫁入りもの」というジャンルがあって、人はもちろん動物や化物などを主人公にした作品まで多数出版されている。

したがって、見合いに始まる結婚がスタンダードであった時代に、親(猫の場合は飼い主か)の許さぬ間柄は、たとえ双方が独身であったとしても「私通」「密通」とみなされ、場合によっては「不義者」扱いされることもあった。

いやいや、それはあくまで良家の子女の話であって、下々の者やそんじょそこらの野良犬、野良猫風情がどこで誰と何をしようがお構いあるまい・・・

いや、そうではあるのだけれど、玉が手拭いで顔を包み、「しのび猫」となっているところを見ると、二人(お相手の名は「おミケ」という)の間にはやはり乗り越えがたい障壁があり、人目を忍ぶお付き合いをせざるを得ない事情があったのだろうと推察される。

そして…

<其の24へ続く>