いまこそ「よむ本」:病牀六尺

2020.04.28

人間文化学科 今林 直樹 教授 [教員プロフィール]

正岡子規に興味を持ってもう30年以上になる。子規は『歌よみに与ふる書』で「貫之は下手な歌よみにて『古今集』はくだらぬ集に有之候」と記し、和歌の世界に革新を起こした。また無類の野球好きで、随筆『松蘿玉液』では当時は新しいスポーツであった野球を懇切丁寧に紹介した。「野球」というのは子規の本名である「升(のぼる)」に「野」「球=ボール」をあてたともいわれる。

さて、そんな子規の人生は実年数で35年にも満たない短いものであった。子規はその若い晩年、結核を患い、脊椎カリエスに侵されながらも、『仰臥漫録』『墨汁一滴』『病牀六尺』といった随筆を死の直前まで毎日、新聞に発表し続けた。子規にとって「書くこと」が生きることであった。それらには病に苦しみながらも「生きることを楽しんだ」子規の姿が生き生きと記されている。

いま、子規を通して「生きる」ことについて考えてみてもいいのではないか。そんな思いを込めて、晩年に書かれた上記3つの随筆の中から『病牀六尺』(岩波文庫)を「いま読むべき本」として推薦したい。

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