新型コロナ禍の1年を振り返って

2021年2月22日

学生・保護者・教職員・入学予定の皆様へ

新型コロナ禍の1年を振り返って

宮城学院女子大学
学長 末光 眞希

新型コロナに開けた2020年度は、新型コロナと共に終わろうとしています。大震災から十年。早いな、だんだん大震災の思いも風化したな、と思い始めた矢先の2月13日、2011年4月7日の最大余震以来の大地震が再び私たちを襲いました。「いつまでも忘れてくれるな!」と亡くなった魂が叫んでいるような地震でした。学生の皆さん、地震はだいじょうぶだったでしょうか。

今から一年前に新型コロナウイルスが中国の武漢で発生した時、封鎖された街の中で作家方方(ファンファン)さんは「武漢日記」を著し、「一つの国家が文明的かどうかを計る尺度はたった一つ。それは、その国の弱者に対する態度なのです」と書きました。

大学も同じだと思いました。コロナ禍に見舞われた昨年の5月3日、本学は「皆さんの大学生活を守るための10の約束」を発表しました。私たちは、遠隔授業へのサポートや図書の郵送サービス、そして困窮学生への経済的支援を約束し、最後に「秋になっても冬になっても入学式を行います」と約束しました。

それは新型コロナに対する戦闘宣言だったと、いま振り返って、思います。世の中にはWithコロナ、ニューノーマルと言った言葉が溢れていました。それは正しいことでした。しかし同時に、これらの言葉が<対面>への取り組みを断念するものであってはならない!と強く思ったのです。大学は他者(ひと)と出会う場所です。人と出会うことを始めから断念したら、そこはもう大学ではない、何より大切なことは、私たちはコロナとの長期戦を戦い続けるために、人と会う必要がある、それほどまでに私たちは弱いのだ――そう思っていました。

前期は遠隔授業となりました。誰に見られることもなくただただ美しく咲き誇るサクラを見て、涙が出ました。新入学生たちはほとんどキャンパスに足を踏み入れることもなく遠隔授業となり、友達さえできない日々が何カ月も続きました。私たちにできることは限られていましたが、フードバンクの食料仕分け作業や食料配布など、一年生に少しでも安全にキャンパスに来てもらえる機会を用意しました。

遠隔授業は送る方も大変なら、受ける方も大変でした。しかし私たちは遠隔の良さを十分に知ることができました。遠隔の方が出席しやすいと感じた学生もいたのでしょう。出席率がアップしました。皆さんは情け容赦なく課せられる課題に悲鳴をあげたことでしょう。しかしそれは必ず皆さんのためになる日が来ると信じています。私は相変わらず、大学には対面が大事と思っていましたが、しかし、では本当に対面でなければできない教学を私たちは提供しているか、とも自問しました。この経験は新年度の授業にきっと活かされることでしょう。

前期の後半あたりから「私たちが今、苦労しながら遠隔授業を行うのは、後期から対面授業を行うための準備なのだ」と気付かされました。コロナ禍の下で安全に対面授業を行うため、入構管理、検温システムの設置、放送部による注意喚起放送、感染対策を考えた時間割、食堂のパネル設置、こうした準備を、遠隔授業を行う傍らで整えて行ったのです。そして前期の遠隔授業の経験は、後期にいつ第二波、第三波が来ても、直ちに遠隔に切り替えられる備えを私たちに与えてくれたのでした。

9月9日~11日の三日をかけ、私たちは入学式を挙行しました。学生と約束したのだから約束を果たすのは当然と思っていました。しかし世の中はそう受け止めませんでした。5カ月遅れの入学式をメディアは大きく報じ、テレビの全国ニュースにもなりました。世の中の反発を覚悟して実施した入学式でしたが、大きな好意を以て受け止められ、報われた思いでした。

こうして後期は対面7割、遠隔3割で授業を開始することができました。入学式や対面主体の後期授業の実施、これらの背景にある思いは、上記のとおりです。しかし、もし、私たちの気が緩み、キャンパス内外で大学関係者がクラスターを発生させれば、これまでの努力はすべて水泡に帰することになります。たいへんありがたいことに、教職員そして学生の皆さんが本当に気を付けて日々を過ごしたお陰で、本学はこれまで、そのような事態を免れてきました。ほぼ毎日のようにPCR検査対象者が出た時期もあったのです。私たちはそのたびに、神様の守りに感謝したことでした。

予想していたこととはいえ、新型コロナとの戦いは長期戦になりました。「一人の退学者も出さない」と言いながら、これを阻もうとする容赦ない現実の厳しさがあります。しかし大学はこれからも新しい支援を考え続けます。学生の皆さんにおかれては、本当に困難なことでしょうが、どうか日々の小さな楽しみを工夫して見つけてください。そして友だちと、先生と、大学とどうか繋がり続けてください。

新学期、また元気に会いましょう。

入学予定の生徒の皆さん、4月にお会いできるのを心待ちにしています。