【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の9
深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

犬に追いかけられた玉ちゃんは、さすが猫! 持ち前の瞬発力と敏捷性を活かして高いところに逃れた。
屋根の上ならこっちのもの。さしもの犬も追っては来られまい。が、玉ちゃんはたった今、犬に追いかけられたことも忘れて屋根伝いに駆け出していく。
「ヤア、お魚のにおいがする!」
家の外は危険もいっぱいだが、誘惑もいっぱい。おそらくどこかの家で魚でも焼いているのだろう。
こうして玉ちゃんは本能と欲望の赴くまま、人間の数万倍、あるいは数十万倍ともいわれる嗅覚を武器に、冒険の旅に出る。
そう。猫たちは基本的に気まぐれで、自由を愛する生き物なのだ。
たとえそれが我家の飼い猫だったとしても、私たちは猫たちを意のままに操ることはできない。
俗に「犬は人につき、猫は家につく」というけれども、外に出かけた猫たちが必ず我家に戻ってくるという保証はない。他に気に入った家があればそこに棲みついてしまうケースもあるし、しばらく音沙汰がなくてひょっこり戻ってくることもある。
そういう意味でいうと、猫という生き物は誰の世話にもならない「野良猫」、地域ぐるみで養われている「町猫」、あるいは特定の飼い主の元で養われる「飼い猫」の間を気ままに行き来する自由な動物なのである。
ところで、猫たちが屋根伝いに移動できるということは、それだけ人家が密集しているということ。おそらく手前が通りに面した表店、その奥が裏店(裏長屋)であろう。ちなみに、玉ちゃんが登った屋根の上に、竹を斜めに渡した桟が描かれている。これは屋根材の板押さえであり、斜めになっているのは雨水の水はけを考慮したものではないかと思われる。
さて、玉ちゃんは目指すお魚にたどりつけるだろうか。
<其の10へ続く>
