日本文学会では2024年度から「文学空間展示」への挑戦を開始しました。
「文学空間展示」とは、教室という空間に文学作品の世界を作り上げ、来場者に体験してもらう展示です。
ちなみに、今流行りの没入型展示を目指しています。
日本文学会とは、教職員と学生により構成され、有志の学生により運営される日本文学科内の研究活動組織です。
今年も舞台は大学祭。
作品は太宰治『走れメロス』。
今回日本文学会が目指したのはメロス・トライアスロン。
お客様にメロスになっていただき、親友のセリヌンティウスを救っていただくわけですが、実際にメロスが駆け抜けた三日間を再現していきました。
入口から中に入ると、頭上から聞こえてくる声。その声は何種類かあり、ランダム再生されます。
メロスが走り出すまでのストーリーが日本文学科教員によって語られるという、卒業生にとってはまさかの恩師(声)との再会の場を、日本文学科の学生にとっては「え?!志村先生?!」というサプライズの場を演出。
同時にそのストーリーをパネル展示しました。
小さなお子さんでもわかるよう、日本語を学ぶ外国の方でもわかるよう、やさしい日本語でメロスの物語をリライトしました。
ストーリーを最後まで聞き終えると、いよいよメロスの誕生へ。
子どもたちにはメロスの衣装を用意し、セリヌンティウスを救う旅へ出発します。
メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。(『太宰治全集4』筑摩書房、1998年7月 p.293、以下引用はすべてページ数のみ表記)
先ずは満点の星空です。(満点の星空、撮影し忘れました・・・・)
星が輝く暗いトンネルを抜けると、メロス(=お客様)は自分の村に到着します。
そこでは妹の結婚式がおこなわれ、村はお祝いムード。メロスが世話をしている羊もお出迎え。
花嫁になった妹と義理の弟との写真撮影も可能(絵が上手な学生によるメロス顔はめパネルを設置)です。
妹の結婚式を終えたメロスは「羊小屋にもぐり込んで、死んだやうに深く眠つた(p.295)」あと、セリヌンティウスが待つシラクスの市に向けて走り出します。
雨も、いくぶん小降りになつてゐる様子である。身支度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振つて、雨中、矢の如く走り出た。(p.295)
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇つて、そろそろ暑くなつて来た。(p.295)
スズランテープをたくさん垂らし、雨のトンネルを制作。
通り抜けようとすると顔や身体にまとわりついてきます。同時に、ダンボールでこしらえた木(丸太)も上から垂らしました。メロス(=お客様)はスズランテープの雨に気を取られると丸太にぶつかるという、障害物競走のようなエリアを走り抜けます。
そしてたどり着くのは暴れん坊の川です。
見よ、前方の川を。きのふの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしてゐた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまはし、また、聲を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚はれて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のやうになってゐる。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまへ、荒れ狂ふ流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまはぬうちに、王城に行き着くことが出来なかつたら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」(p.296)
川の両脇には木端微塵になった橋桁を配置。
ブルーシートで川を作り、足にまとわりつくスズランテープと大量のペーパーフラワーを散らし、荒れ狂いながらもどこか写真映えする美しい川を再現しました。
ようやく川を通過したメロス(=お客様)ですが、「突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。(pp.296-297)」。
メロス(=お客様)に襲い掛かる山賊たち。
ここはお祭りの射的をイメージしました。
これまた絵が上手な学生が作成したハンサムな山賊たちを紙コップに貼り付け、割り箸ゴム鉄砲を使って倒します。
そうしてついにメロスはシラクスの市にたどり着くわけですが、その途中にはメロスの休憩所をひっそり設置。
ここはご存じ「勇者に不似合ひな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰つた(p.298)」メロスがさぼる休む場所です。
ゴールにはあえて刑場を作らず、白パネルで四方を取り囲んだ空間を作りました。メロスの三日間を体験したお客様は突然白い空間に誘導されるわけです。その空間には額縁に入れられたクイズが飾ってあります。
「あなたは誰を助けたかったのですか?」
正解した方には学生が作ったメロスグッズをプレゼント。
クイズに関係なく、出口ではメロスが格闘した川におそらく普段は泳いでいるであろう魚を使った釣り竿をお配りしました(すべて折り紙で制作)。この釣り竿がよく出来ていて、お客様には可愛いと喜んでいただけました。
合計607名のメロスが誕生した日本文学会の「文学空間展示『走れメロス』」。
メロスになってくださった皆さま、本当にありがとうございました。
日本文学会が2年前から挑戦を開始した「文学空間展示」。
昨年度は宮沢賢治『銀河鉄道の夜』。今年度は太宰治『走れメロス』。
来年度は果たして・・・・・・ ご期待ください。
*本文の引用には『太宰治全集』第4巻(筑摩書房、1998年7月)を用いました