日本文学科には、教職員と学生により構成され、有志の学生により運営される「日本文学会」という研究活動組織があります。この秋、「日本文学会」は新たな企画と共に大学祭へ参加することになりました。
その企画とは教室という空間に文学作品の世界を作り上げ、来場者に体験してもらう「文学空間展示」。
インスタレーションへの挑戦です。
作品として選んだのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。なるべく誰もが知っているであろう作品を選びたいと考えました。
制作を開始する前に行ったことは以下2つ。
1:映画鑑賞会
2:読書会
日本文学科には映画がご専門の李先生がおりますので、映画を鑑賞する際にどういったことに気を付けて観るか、どこに注目したらよいか、時代背景や、監督の演出方法などを具体的に教わりながら、先生と一緒に映画鑑賞会を実施しました。
もちろん日本文学科には近代文学がご専門の笠間先生もおります。
先生と一緒に実施した読書会は盛り上がり、気づいたら3時間も経過。場面をひとつひとつ取り上げ、どのように解釈したか、意見交換を行いました。
三角標とは一体何か?天気輪の柱とは?想像力が膨らみます。
そうして、夏休み明けの9月中旬から本格的な制作に着手しました。
何を作っているかわかりますか?
黒いガムテープで表現するものは・・・・・・
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ほんとうにジョバンニは、夜の軽便鉄道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら座っていたのです。(宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』新潮社 p.203)
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ここまでくるとわかりますでしょうか。線路を作りました。その奥にある黒い大きなものは乗車可能な汽車。軽便鉄道です。試行錯誤を繰り返してようやく形になりました。シュッシュッシュッという音も流しました。
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「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」カムパネルラが、窓の外を指さして云いました。
線路のへりになったみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。」(宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』新潮社 p.207)
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『銀河鉄道の夜』にはりんどうの花がたくさん出てきます。生花での用意も考えましたが、ここはあえて折り紙で挑戦してみました。しかしこれが難しい。ひとつ折るのに30分以上かかることも。器用な学生が中心となって皆に教えながら折りました。
日本文学科ではこの秋から留学生が学んでいますが、留学生も初めての折り紙に挑戦しました。それがこのりんどう。だいぶ苦戦していたようです。
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「何だか苹果の匂がする。僕いま苹果のこと考えたためだろうか。」カムパネルラが不思議そうにあたりを見まわしました。(宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』新潮社 p.228)
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リンゴも購入せずに折り紙で作りました。折り紙リンゴ、匂い付きです。(匂いをつけました)
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十字になった町のかどを、まがろうとしましたら、向うの橋へ行く方の雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六、七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。(宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』新潮社 p.199)
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『銀河鉄道の夜』には烏瓜の燈火というものが登場します。本物の烏瓜での制作は難しかったため、橙色の画用紙とクリアファイル、オリエステルおりがみなどを用いてランタンを制作することに。
完成したのがこちらです。入り口で駅員さんからこのランタンを受け取り汽車にご乗車いただきました。
想像以上に幻想的に仕上がり嬉しかったです。色々試した甲斐がありました。青い光も原作通りです。
大学祭前日の様子です。インスタレーションを仕上げていきます。
ジョバンニが軽便鉄道の窓から見た景色を教室内に再現します。窓の外にはさまざまな大きさの三角標が見えます。りんどうの花もあちこちに咲いています。教室の床は銀河です。銀河だから光ります。イルミネーションを用いて再現します。写真にはありませんが、銀河ステーションでカムパネルラがもらった黒曜石でできた地図も飾りました。白鳥の停車場で11時を指す時計、その下には「二十分停車」という貼り紙。プリオシン海岸の「木製のきれいなベンチ」。大きな袋に画用紙で作った鳥も入れ・・・・
出口付近ではひっそりと「新世界交響楽」が聞こえてきます。蠍の火も見えてきます。輝く十字架も外せません。三角標も青く輝きます。
日本文学会委員として活躍する学生たちが取り組んだ『銀河鉄道の夜』の世界。
2年生がリーダーシップを発揮し、1年生と共にチャレンジしました。
制作にかかったのは約一ヶ月でしたが、とても充実した時間を過ごすことができました。制作に関わった学生ひとりひとりの長所を生かすことができた企画になったと思っています。
大学祭ではたくさんのお客様においでいただきました。
宮沢賢治好きの方々も多く、お褒めの言葉も頂戴いたしました。日本文学会始まって以来の企画「文学空間展示」。来年も新たな文学作品を携えて大学祭に参加できたらいいなと思います。ご乗車いただいた皆さま、本当にありがとうございました。