教員のリレーエッセイ:日本文学科 教授 深澤昌夫

こんにちは。日本文学科の深澤です。古典文学を担当しています。ついでに、MTTミヤガク東北トラベルの社長も務めております。

社長? 東北トラベル? 何のこっちゃ? とお思いの皆さん(笑) ミヤガク東北トラベルは2018年に起業した、宮城学院史上初となる学科内企業なのです。

我が社は、カリキュラム上「東北の文学・文化・ことば」などという、たいへん地味めな授業科目に身をやつしておりまして(「やつす」というのは「先の副将軍が越後の縮緬問屋のご隠居のフリをしている」とかいうアレです)、何かと奥ゆかしい日本文学科らしく、あるのかないのかよくわからない、かそけき「幽玄会社」を名乗っておりますが、社員たちにはか・な・りハードで、ハイレベルな要求をする会社としてもっぱらの評判です。

おやおや、ニチブンさん、大丈夫なの!? なんて声も聞こえてきそうですが、皆さま、安心してください(笑) ありがたいことに、ミヤガク東北トラベルは学内外から評価され、「私もこういうことがやってみたくて入学を決めました!」と言ってくれる学生・受験生も毎年大勢いるのです。

さて、「東北の文学・文化・ことば」という授業(会社的には「事業」)のメインテーマは、ズバリ「東北再発見!」です。

私たちは意外に(意外でも何でもないかもしれませんが)自分たちのことを知りません。自分たちの地元のことも知りません。地元のことを聞かれて、つい「何もないから」と答えてしまいがちです。でも、そんなことはありません。どんな不便なところでも「何もない」はずがありません。

ミヤガク東北トラベルは、知っているようで実はよく知らない、私たちの地元・東北地方について、その土地ゆかりの文学・伝説・言い伝え、地域で受け継がれてきた民俗・風習・生活文化などに着目し、これらを「地域の歴史・文化的資源」として見直してみよう! ということをテーマに掲げています。

でも、それだけなら「授業」です(いや、もともと授業なんですが…)。学びの成果が教室の外に波及することもありません。下手をすると、「こんなもんでいいよね」的な自己満足で終わってしまいます。しかし、私たちの目指しているのは「ビジネス」です。MTTミヤガク東北トラベルという企業としては、マジで売れるものを作らなければ意味がありません。私たちと利害関係のない、ごく一般の方々がこの企画、この商品に興味を示し、これならお金を出してもいい、購入してもいい、と思うようなものを作らないと、会社はつぶれてしまいます。

その点、私たちは本気です。遊びですが、本気です。アカデミックな文献調査はもちろんのこと、綿密な現地調査を行ない、土地の方々にもお話を伺い、その取材の成果、発見(再発見)・学びの成果を一冊のガイドブックにまとめ、実際に使える本格的なトラベルガイドとして世に送り出すことを事業の柱に据えています。

要するに、地域について学び、その成果を広く社会に還元する。あるいは、大学の学びと社会とをつなぐ、ということですね。そしてそれは、私たちのように、ふだん文学や語学を学んでいるような者たちであってもできるのだ、ということです。むしろ、文学を専門に学んでいるからこそ可能な社会貢献がある。あるいは、文学を学ぶとこういうビジネスも考えられますよ、というようなことを、学生たちを含む多くの方々に知っていただきたいと思うのです。

そんなわけで、社員たちにはハードでハイレベルな要求をすることになるわけなのですが、でもまあ、みんなよくついてきてくれています(*’▽’) ありがとう! みんな

では、MTTミヤガク東北トラベルのこれまでの歩みと取り組みについて、具体的にご紹介しましょう。

ミヤガク東北トラベルのトラベルガイド、その栄えある第1作は『遠野物語』でした。

我らが期待のSHINEたち(我が社では「磨けば光る!」という期待を込めて、社員のことを「SHINE」と呼んでおります)は『遠野物語』を読みこみ、そこに出てくるデンデラ野やゴンゲサマ、カッパ淵に五百羅漢、縁結びで有名な卯子酉(うねどり)サマ、あるいは巨石が絶妙な組み合わせで屹立している続石(つづきいし)などを実地に調査し、硬・軟取り混ぜた文章で皆さんを『遠野物語』の世界に誘います。
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2冊目は、折しもコロナ禍によって遠出が難しくなった時期でしたが、それならば!と、芭蕉の『おくのほそ道』をモチーフに、松島をテーマにしたガイドブックを制作しました。

 

そもそも、松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅に出た理由は松島の月を見ることでしたから、我が社も満月の日を狙って現地取材を行いました。

 

それは紅葉の深まりゆく十月最後の日曜日。ほんとうに雲一つない、いいお天気でした。夕方、空の色も次第に濃く、深くなっていくなかで、島々の背後から登り始めた月はそれはそれは見事でした。また、月の光が作り出す、水面(みなも)に照り映える光の道も感動的なぐらい素敵でしたよ。

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3冊目と4冊目は2ヶ年にわたってみちのくの「鬼」伝説をめぐる旅を提案しました。

 

私たちの地元、東北地方は文字通り「道の奥」にあって、古来、朝廷から「敵」「夷」「賊」扱いされてきたため、「鬼」にまつわる伝説・伝承が非常に多い土地柄です。

 

そこで、最初の年は旧仙台藩の北部に位置する鳴子の鬼首(おにこうべ)と一関の鬼死骸(おにしがい)地区を中心に、坂上田村麻呂に滅ぼされたというオオタケマル伝説を追いました。

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その翌年は、福島はあぶくま洞周辺に伝わるオオタキマル伝説と、能「黒塚」で有名な二本松は安達ヶ原の鬼女伝説を取り上げました。

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5冊目はちょっと趣を変え、東北地方に伝わる義経伝説を追いかけて、八戸まで足を延ばしました。悲劇の英雄義経は、しかし平泉では死ななかったのです。義経は平泉を脱出して三陸に逃れ、北上し、青森にたどり着いた。あるいは、さらに渡海して蝦夷地にまで到達した。あるいは…、というように、義経は東北地方の人々の期待と願いを背負って、無限に逃げ続けるのです。

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そして、つい先日、6冊目のガイドブックができあがりました。文字通り、出来立てホヤホヤの最新号です。

 

今回は宮城県北部に位置する登米(とよま/とめ)エリアを中心に、当地ゆかりの昔話や伝説をめぐる旅をご紹介しています。SHINEたちの「ハイカラさん」スタイルもよく似合っていますね。ちなみに、衣装は登米の教育資料館でレンタルしたものです(有料)。次回は皆さんもぜひ!

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いかがでした? 日本文学科のMTTミヤガク東北トラベル。

 

ちなみに、今年度(2024)後期入社の新入SHINEたちは、目下仙台市内を中心に、歴史に埋もれた伝説をたどるプロジェクトに取り組んでいます。おそらく長年仙台にお住いの皆さまでも知らないことがまだまだいっぱいあると思います。ミヤガク東北トラベルはそんな皆さんを「少しだけ、未知の奥へ」ご案内いたします。

 

さあ、このエッセイもそろそろおしまいです。もし万が一、我が社に入社をご希望の皆さまは、とりあえず宮城学院にご入学をお願いいたします(笑) 学芸学部日本文学科教職員一同、皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げます。

 

ではまた、どこかでお会いしましょう。ごきげんよう。さようなら!

 

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