教員のリレーエッセイ:生活文化デザイン学科 助教 洞口苗子

生活文化デザイン学科の 洞口 苗子(ほらぐち なえこ)と申します。2024年度より本学の教員として、建築設計やインテリアデザインの授業を担当しております。

出身は神奈川県藤沢市ですが、大学卒業のタイミングで東日本大震災が発生。復興支援等で大学院時代に宮城県石巻市牡鹿半島へ通ったことをきっかけに東北の豊かさに触れ、都心で働くよりも地方都市で生業を築くことを決めました。

本学での教育活動に加えて、現在は宮城県岩沼市にて、自身で主宰する株式会社L・P・Dの代表取締役CDOとして建築設計デザイン・地域開発の仕事をしています。

建築設計事務所での設計業務は通常、施主からの依頼を受ける形の受注(クライアントワーク)を生業とするのが一般的ですが、私たちは通常の設計業務に加えて、自邸と会社の拠点をおく岩沼市館下エリアにて、自社で自ら資金調達・企画・所有・設計・運営・維持管理をしながら、小さく村をつくるようにエリア開発をしています。

今回のエッセイでは私の「村づくり」の取り組みについて、ご紹介したいと思います。

 

■第1期:住み開きからはじめる村づくり|複合古民家実験住宅TateshitaCommon 

第1期としては、築60年の古民家を購入し、自邸(二世帯住宅)と店舗(義母の美容室)へリノベーション(2016年)。複合古民家実験住宅TateshitaCommonと呼ぶこととし、地域のコモンスペースとして「住み開き」を行なってきました。

 

本来土地(敷地)は、個人の所有するものとして、塀などでしっかり区分けされているのが一般的ですが、コモンとして認識をしてもらうために、「敷地境界をぼかしていく」ということから取り組み始めていったのです。

 

具体的には、「たてしたシネマパラダイス」という屋外映画イベントや、「館下暮らし」というマルシェ、子ども向けの教育イベント「Creative School」などを民地公園TateshitaCommonとして開催しました。

 

「敷地に価値なし、エリアに価値あり」
という清水義次さんのことばがあります。

 

ある敷地があっても、その敷地は単体では価値を持つことができず、その周辺(もっというと徒歩5分圏内)にどのような場やコンテンツがあるか? 敷地を超え、エリアとして価値をつくっていくことが何より重要であるという視点です。

 

そうしたエリアを育てていくためには、都心本社のナショナルチェーンの誘致ではなく、小さな店舗でも着実に地元の生業、地域内経済を育てていくという目線も大切になります。

 

そのような視点を持ってまちを見ながら、岩沼市において自分たちはどのようなことをやることができるか、思考しながら第2期、第3期と少しずつエリアを育ててきました。

 

■第2期:生業(なりわい)集積と緩やかなネットワークづくり|コワーキングスペースTateshitaShare 

第2期としては、TateshitaCommonから徒歩2分のところに民家を借り、そこをコワーキングスペースTateshitaShareとして運営をスタートしました(2020年)。

 

岩沼市は昼夜間人口比率は高い(日中に人がいる)というデータはあるものの、実際は平日の日中にまちを歩いている人はほとんど見受けられません。この理由のひとつは、工場勤務の方が多く工場に缶詰めのため、日中にランチなどに出る人も極端に少ないことがあります。

 

岩沼で多様な働き方がうまれ、生業を築く人が増えれば地域経済ももっと豊かになるのではと考えながら、そのネットワークの一環となることを目指してTateshitaShareを運営しています。

 

現在ではカメラマンさんや旅行会社さん、整体院さん、自宅以外に仕事場の欲しい個人の方などに利用していただいております。

 

■第3期:賃貸住宅の住環境を豊かに|apaetmentBEAVER 

第3期を始めるきっかけとなったのは、TateshitaCommonに隣接する土地が売りに出されたことです。土地を買い足すにあたり、そこで何を行うか?改めて思考を整理しました。

 

例えばカフェやワインバーなどを作りたくても、持続可能な事業とするためにはそこを利用するような方々にまずは住んでもらう必要があります。「安いから選ばれるまち」ではなく、もっとポジティブな理由でまちを選んでもらう必要を感じました。

 

そこで、まずは「住環境」をもとに豊かな暮らしを提供することができれば、仙台に住んでいる人も岩沼に住むことをポジティブに選択するようになるのではと考え、岩沼に賃貸住宅を作ることからスタートすることにました。

そしてできたのがapartmentBEAVERです(2020年)。

 

4.process

 

また、皆さんの住んでいるor住んだことのある賃貸住宅はどのような住環境だったでしょうか?暑い、寒い、結露がすごい、、など、当然のようにこうした経験をしている方は少なくないと思います。

 

従来の賃貸住宅では利回りだけを重視し、工事費がアップするような断熱性能に投資されることはほとんどありません。今回apartmentBEAVERでは、高気密高断熱(HEAT20 G1グレード)を実現しています。

 

はじめての住まいである賃貸住宅の住環境がよくなれば、もうこれ以上性能の悪い家には今後住みたくない!日本の住環境を向上させることに直結することを望んでいます。

 

ハード面だけではなく、ソフト面でも、apartmentBEAVERは、火の見える暮らしをコンセプトに、各住戸ペレットストーブを設えた広い玄関土間を保有。共用サービスとしてセルフロウリュのできるサウナや、テントや焚き火台などのアウトドアギアを設けています。

 

こうした豊かな暮らしに共感してくれる方々と共に、豊かな村の風景が少しずつ見えてきているところです。

 

■第4期:来街者へ豊かな日常を|Hotel TateshitaSauna&Living

第4期として、apartmentBEAVERの一室をHotel TateshitaSauna&Livingとしてオープン(2024年)。訪れた人々にとって、ちょっと手を伸ばせば届きそうな豊かな日常を体感してもらいながら滞在を楽しんでほしいと思っています。

 

このホテル一室も実はアパート入居者の方にもご利用いただいており、例えばご家族が泊まりに来た際など、寝具の準備など気にせず滞在してもらえるようになっています。

 

こうしてまちを様々な視点で日々みながら、自分たちのできるところから変えていく、こうしたことを繰り返し、この8年間でこのエリアの風景は着実に変わってきています。

 

 

みなさんもぜひ、様々なまちを訪れてみてください。
そして、まちの魅力がどのように作られているか、感じてみましょう。

 

きっとまちの魅力は、敷地単体によって作られているのではなく、エリアとして敷地境界を超えて集積していることに気づくでしょう。

 

(参考リンク)
■株式会社L・P・D
/l-p-design.com/

■Hotel TateshitaSauna&Living
/l-p-design.com/news/sauna