教員のリレーエッセイ:心理行動科学科 助教 千葉 陽子

 みなさんは、「スポーツ心理学」と聞くとどんなことを思い浮かべますか?おそらく、スポーツ場面を想像し、スポーツをやっている人のものと考えるのではないでしょうか。

 ご挨拶が遅くなりました。こんにちは、心理行動科学科の千葉陽子です。スポーツ心理学の科目を担当しています。今年の4月に13年ぶりに故郷に戻り、学生と学びを深める毎日を送っています。

 私はこれまで体育学部やスポーツ学部がある大学で授業を行ってきました。自分自身を懸けて長年スポーツに取り組んでいる学生がほとんどで、スポーツ推薦入学や、大学卒業後も競技を続けるといった、スポーツを中心に世界がまわっている人たちの中にいました。

 本学は、心理学科の中にスポーツ心理学を構えています。これは全国的にも大変珍しいことです。つまり、「スポーツ科学から心理」を考えるのではなく、「心理学からスポーツ」を考えることになります。本学の学生のスポーツ体験は、義務教育での体育や部活動によるもので、現役でスポーツをやっている学生はほんの一握りです。

 冒頭で、スポーツ心理学のイメージについてうかがいました。スポーツ心理学は、スポーツをやっていない人や、それこそ苦手、嫌いな人にとっては、距離を置きたくなるはずです。この問いは、スポーツ心理学が一般にどのように受け入れられていくのかという本学問の発展にも関わる重要な問いなので、学生の反応を見ながらあーでもないこーでもないと模索する日々です。どのような考えに至ったのか、続編は次のリレーエッセイにゆずることにします。

 現在行っている研究は、アスリートの攻撃性についてです。攻撃性は、悪いもの、望ましくないネガティブなものとして捉えられることがほとんどですが、心理臨床の領域では「生きるエネルギー」や、「自己主張」といったポジティブな側面に注目しています。その二義性に着目し、アスリートの攻撃性を競技エネルギーに変換するメンタルトレーニングプログラムの開発を目的として研究しています。特に身体接触を伴う競技(ラクロス、ラグビー、アメフト、サッカー、バスケットボールなど)は、攻撃性が発現しやすい状況にあります。そんな状況の中、イライラして自滅したり、相手にやり返してファウルをもらってしまう選手もいれば、自身の攻撃性を得点の量産につなげるといった、パフォーマンス発揮に活かす選手もいます。アスリートの攻撃性をパフォーマンス発揮に活かすためにはどうすればいいのか、という視点に立ち、そのメカニズムや方法を探索しています。
 

研究で用いた検査用具の一例。調査参加者は、絵をみて、一連の物語を作ります。これは、心理学の検査法の一つである「投映法」に分類されるTAT(主題統覚検査:Thematic Apperception Test)によるものです。アンケート調査よりも、より無意識的な側面を明らかにすることができるといわれています。

 

 本研究は、自身の競技体験から着想を得ました。ラクロスをやっていた大学生時代(上段右から二番目が私です)の話です。普段とっても清楚で大人しいAちゃんが、ラクロスになると、人格が変わったように攻撃性を発現していました。普段聞いたこともないような低い声、言葉を発していました。その時、スポーツのルールという枠が人間の攻撃性を許容したように感じました。人間は守られた空間があると、自分自身を出しやすくなるんだ、人間の二面性とはこういうことかという心理臨床で学んだことと通じるものを感じたのです。

 
 こういった普段の自身の疑問や興味関心をゼミでは取り上げ、卒業研究につなげていくこともあります。一方で自身の体験への思いが強すぎると、視点が狭まってしまうことも少なくありません。自身の体験を信じながらも疑うという姿勢で取り組む重要性も感じていますので、自分自身が常に心がけながら、学生に伝えていきたいと思っています。