心理行動科学科の高田利武です。
今回は心理行動科学科の取り組みの一端をご紹介します。
心理学はカウンセリング?・・・だけではありません
心理学=カウンセリング、あるいは心のケア、というイメージが強いようですが、それは違います。確かにそれも一つの重要な分野ですが、心理学は基本的に、人間の「心のはたらき」のすべてを対象として、それを科学的に理解しようとする学問です。ですから、およそ人間に関係することなら、何でも心理学の対象になります。
たとえば、女性心理学、犯罪心理学、健康心理学……
というように、○○心理学の○○は無数にあり得ます。
自分自身や他の人の「心のはたらき」を科学的に、つまり冷静かつ客観的に理解しようとすることは、何もカウンセラーに限らず、あらゆる仕事や職場、あるいは家庭やコミュニティーで、私たちがよりよく生活してゆくためにとても大切なことです。
本学の心理行動科学科は、そのような立場から教育や研究を行っています。
「心理行動実践セミナー」
「心理学は机の上だけでは学べない」 これが心理行動科学科のモットーです。
心理学は「心」という直接には確かめることのできない対象を、実験・調査・観察など、さまざまな方法を駆使して科学的に理解しようとする学問です。その心理学を学ぶ上で、これらの方法を身につけることが必須です。
「ただ本を読んで勉強するのではなく、実際に体験することが大切!」という心理行動科学科のモットーにそって、1年生の必修科目として設置されているのが「心理行動実践セミナー」です。
この科目では、受講者は3~4の班のどれかに分かれます。各班は15人前後で構成され、それぞれ異なった教員が担当します。各教員が提示したテーマについて、受講者は手分けして調査や観察によって資料を集めたり、実験装置を作って実験したりします。どの班に所属するかは、テーマを見て受講者自身が決めます。最終的には観察・実験などの結果を分析・考察して「ココロサイコロ」と銘打った発表会を学外で開催し、その結果を広く一般の来場者に展示・説明します。
こうして、入学早々の1年次から、心理学という学問の基本を体験すると同時に、班での活動に積極的に参画し、活動の成果を展示・発表します。そういう経験がその後の学修の基礎になって欲しい、われわれ心理行動科学科の教員一同はそう考えているわけです。
趣味と実益の統合??
私も「心理行動実践セミナー」を担当してきましたが、さて何をテーマにしようか……いろいろ考えて、学生諸姉の参画感を高めると同時に、私自身も「楽しめる」テーマにしようと、学科発足以来「電車・バス車内での乗客の行動観察」を行ってきました。「観察」という、心理学にとって最も基本的な方法を学生諸姉に体験してもらうこともさることながら、他にも理由があります。
実は、私は大変な鉄道マニアです。
と同時に、路線バスにも多大な興味があります。
ものごころついた頃から、既に私は電車とバスに異常な関心をもっており、それは65歳の今にいたるまで変わらず続いています。いわゆる「クルマ」には全然関心がなく、車種の識別すらほとんどできないのですが、バスだけは違います。
車体の構造が電車と似ていたり、「レールバス」があるからでしょうか? ちなみに、鉄道マニアも多種多様ですが、私は「模型派」で、鉄道模型の制作がメインの「てっちゃん」です。
6年前の着任以来、宮城学院に来てよかった、と思うことが無数にあるほど、私は仙台が大好きです。とりわけ、719系や721系など(仙台に来た直後にはまだ417系や717系に乗ることもできました!)仙台でなければ見られない電車や、今ではほとんど絶滅した富士重工ボディーのいすずバスなどは、「来てよかった!」を実感させてくれるものです(などと言っても、マニアでなければ理解不能でしょうね)。
心理行動実践セミナーで私が担当する「乗客心理学」班に所属した学生諸姉は、電車やバスに乗り、予め設定したいろいろな目的に沿って、車内の乗客の行動を観察・記録して教室に持ち帰ります。授業では、その記録をさまざまな角度から分析し、結論を引き出します。
それでは、昨年11月の「ココロサイコロ2009」で発表した「乗客心理学」の一端をご紹介しましょう。
昨年度は、仙石線(写真1:ちなみにこの205系3100番代は仙石線固有の希少種です)や地下鉄などの電車と市内のバスで、乗客の「席のすわり方」を観察しました。
その結果、自分の両隣に他人が座る可能性のある中間の席をきらう傾向は、若者ほど強い(グラフ1)とか、老人は優先席にあまり座らない(グラフ2)といった知見が得られました。
ココロサイコロではこのような結果に心理学的な考察を加えて発表しました(写真2)。
そして、発表会も無事終わり、一同記念写真…(写真3)。
ちなみに、私が手にしているのは、いすずエルガKL-LV834 L1型仙台市営バス1/32モデル、右端に写っているのが上記の205系3100番代Nゲージ(1/150)モデルです。いずれも学生たちの展示・発表に花をそえるべく(?)、会場で運転したものです。
かくして、種々工夫してデータを収集し、それを綿密に分析することを通じて人間の心を理解しようとする、という心理学の基本的な方法論を、心理行動科学科の1年生学生諸姉は体験したわけです。
この経験が今後の勉学の土台となってゆくことを期待しています。と同時に、私たちの「乗客心理学」には思わぬ副産物もありました。「ロングシート」とか「タイヤハウス」とか……ふつう女子大生がまず口にしない単語が、参加した学生諸姉の会話にたびたび登場しているのを聞いて、私は思わず莞爾(かんじ=にっこり)としたのでした。