教員のリレーエッセイ:食品栄養学科 教授 緑川 早苗

福島では放射線被ばくによって甲状腺がんが増えているわけではありません

2020年4月に食品栄養学科に赴任しました。
臨床医学を教える内科医です。専門は内分泌代謝学でホルモンを分泌する臓器(下垂体、甲状腺、副腎など)の病気を診療する専門医です。
皆さんの中には東日本大震災を経験した方も多いと思いますが、福島では地震と津波に加えて原発事故が起こりました。

放射線被ばくの健康影響について、皆さんはどう感じているでしょうか?福島では大規模な甲状腺がんの検診(スクリーニング)が行われており、若い人たちに甲状腺がんがたくさん発見されていますが、放射線被ばくの影響が現れているわけではありません。福島の原発事故による放射線被ばくは発がんリスクが増えるほど多くはありませんでした。
福島では甲状腺がんスクリーニングを行うことによって、がんがたくさん「発見」されているに過ぎないのです。そしてそのがんの多くは検査を受けなければ、おそらく一生気付かずに過ごしただろう無害のがんです(過剰診断といいます)。

けれどもスクリーニングによってがんが発見された人たちも、周囲の人たちも、当事者ではない全国、全世界の人たちも、福島では放射線被ばくによってがんが増えていると思ってしまうという状況が生まれています。
放射線被ばくは確かに一つの健康に対するリスクですが、科学的に裏付けのあるリスクの程度(福島ではがんが増えるほど高くはないということ)が、スクリーニングを行うことによってゆがめられてしまっているのです。
そして検査を受けている福島の住民とその家族でさえ、その事実を知らずに検査を受けています。スクリーニングがもたらす影響を専門家が住民と十分にコミュニケーションしなければ、真の意思決定支援は困難です。

これからも、どのようにしたら安心や自信や幸福につながる意思決定支援ができるかを模索していきたいと思っています。

福島の子どもは、大丈夫です」――甲状腺検査の現場から
早野龍五×緑川早苗 / 服部美咲