教員のリレーエッセイ:現代ビジネス学科 教授 田中 史郎

ウィリアム・モリスを知っていますか?

 経済学を担当しています。一見すると経済学と遠いようですが、19世紀に活躍したイギリスのW.モリス(William Morris)を紹介したいと思います。
 彼は、世界的にデザイナーや詩人として有名で、しばしば、「モダンデザインの父」と呼ばれています。日本でもそのデザインは、壁紙やカーテンに用いられています。
 しかし、モリスにはもう一つの顔があり、それが社会運動家、思想家としての顔です。当時のイギリスは産業革命の時代で、人類史上はじめて機械制大工場が出現しました。工場での大量生産が広がるとともに、多くは労働者になっていきました。そこでの仕事は労働の喜びからは遠いものであり、手仕事の美しさも失われてしまったのです。
 モリスはこうした状況を批判的にとらえ、「モリス商会」を設立し、家具や書籍を世に出しました。こうした思想と実践は「アーツ・アンド・クラフツ運動」の名とともに世界に受け入れられたのです。さらに晩年、モリスは、労働者を解放し生活を芸術化するために「ハマスミス社会主義協会」を結成するに至ります。日本でも宮沢賢治や芥川龍之介に影響を与えたことは知られています。

 ここで、主著『ユートピアだより』(岩波文庫ほか)を採りあげましょう。本書は、主人公が未来社会に迷い込むファンタジー小説です。そこでは、貨幣がなく法律もない。財産や所有という概念が止揚されているので、そもそも係争がない。政府も議会も過去のものになっている。仕事は義務ではなく喜びであり、生活そのものが芸術的営為として成り立っている…。モリスは、こうした未来社会を描くとともに、そこに至る過程にも言及しています。
 本書は、現代や近未来を構想するうえで様々な示唆を与えています。興味が沸きましたら、何はともあれ一読を。また、小生もモリスに関する論考を発表していますので、よろしく。
/news.mgu.ac.jp/~stanaka/ (田中のホームページ)