近松健と申します。大学では自然科学入門や情報処理などの一般教育科目を担当しています。
1枚の紙を2つに折ってみましょう。これを100回くり返すと、どのくらいの厚さになるとおもいますか。紙を100回も折るのは実際には無理ですが、頭の中でなら何回でも折ることができます。厚さ0.1mmの紙を1回折ると厚さは0.2mmになります。2回折ると0.4mmに、3回なら0.8mmになります。ちなみに26回で富士山の高さ(3776m)を超え、42回で月(38km)まで達します。直感に反するようですが、これは折るたびに厚さが2倍になるからです。参考までに、5冊の本を単純に重ねたものと、冊数を2倍にするのを5回くり返した本の山を並べておきます(写真)。
紙を100回折ると、厚さ(距離)は134億光年になります。これは光が134億年かけて到達する距離です。宇宙の年齢は138億年なので、宇宙の膨張を無視すれば、134億光年は宇宙誕生直後の光が私たちのもとまで旅をしてきた距離、すなわち宇宙の大きさにほぼ匹敵します。
次に、紙の大きさ(面積)に目を向けてみましょう。折り続けると、紙の大きさはあっという間に小さくなります。100回折ると陽子ほどの大きさになります。厚さと大きさという違いはありますが、1枚の紙で、大きな世界(宇宙)と小さな世界(素粒子)をつなぐことができます。
宇宙と素粒子は関係なさそうにみえますが、両者は密接につながっています。一方の理解が深まると、他方の理解も深まります。例えば、陽子どうしを衝突させることで宇宙初期の状態を再現できます。逆に銀河のふるまいから未知の素粒子の存在を予想することもできます。私たち物理屋は、1枚の紙のかわりに対称性と物理法則を道具とし、大小の世界をつなぐことで、この世界の成り立ちを理解しようとしています。このことは物理に限ったことではなく、日常の中でも、つながりのなさそうにみえるものに関係性を見つけると、これまでとは異なるものの見方ができるようになります。