2023年3月20日7時30分配信の朝日新聞デジタルに本学科大橋智樹教授、木野和代教授の共同研究が掲載されました(記事はこちら)。
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この研究は、東日本大震災の直後からの継続的な大学生調査に基づいたものです。両教授は、松浦光和本学名誉教授の提案を受け、東日本大震災直後から毎年1月頃に全国の大学生の意識調査研究(毎年およそ600名ずつ)を行ってきました(たとえば、科学研究費、2020年日本心理学会特別優秀発表賞(発表スライド)など)。
東日本大震災は千年に一度の未曽有の災害とされ、その心理的な影響は他の災害等とは異なる可能性が指摘されています。心理的反応への影響は、当然、被災地からの地理的距離によって異なることが考えられます。さらに、時間の経過とともに単純に減衰するのではなく、一定期間が経ってから突然発現することも想定されます。特異な災害によって生じる心理的反応を長期にわたって追跡調査した研究は非常に少ないことから、本研究が検討されました。
本研究の特徴は、常に大学生を対象として調査され続けていることです。これは、横断調査でも縦断調査でもない新たな調査方法と言えます。調査対象者の年齢幅は常に一定であり、したがって、調査が進むにつれて被災時の年齢が低下する(幼いころに被災した)ことを意味します。このような独創的な調査方法が採用されたのは、そもそも本研究が大学教育に対する東日本大震災の影響の予兆をとらえ、事前に対策を講じることが想定されているためです。
本研究の欠点は、東日本大震災前のデータがないことです。震災前の状態から、どのような心理的反応が生じ、そしてそれが時間と空間を関数としてどのように変化するのか、本来はそれを見ていかねばなりません。しかしタイムマシンがない限りこのような研究は不可能です。
しかし、2012年以降、日本のどこかの地域で大学生の心理に影響を与えることが想定される何らかの災害や社会の変化が生じたならば、本研究はそれ以前のデータを保有していることになります。つまり、東日本大震災以降の出来事に対してはその出来事については、発生前からの変化を追うことができるのです。実際に2016年に発生した熊本地震においては、7月にも臨時調査を実施することで、九州地方の「震災観」が高まったことが明らかになりました。また、2020年からのコロナ禍においては毎年1月の定期調査に加え7月に臨時調査を実施し、その影響の分析を行っています。
以上のような研究に対して、朝日新聞社が関心を示し、この度の記事となったものです。研究者の集めたデータをメディアがデジタル技術で表現するある種のコラボレーションとなりました。デジタル記事は閲覧数によっては朝日新聞本紙への転載もあり得るとのことです。どうぞご覧ください。
なお、本研究の調査データは初年度約2,000人分、2012年度からは約600人分が定期調査11回、臨時調査4回分、計1万人分を超える蓄積があり、今後も継続して蓄積されていきます。これを研究者だけで占有するのではなく、適切な利活用が可能な研究者、実務者、メディア等とデータを共有するシステムの構築を検討しているとのこと。関心のある方は、研究代表者の大橋(ohashi@mgu.ac.jp)までご連絡ください。
木野和代・大橋智樹(2020)東日本大震災が大学生の生活観・人生観に与えた影響(10)―9回にわたる全国定期調査の分析―(日本心理学会第84回大会特別優秀発表賞受賞研究)より関連部分を抜粋