【もりのこどもえんだより:巻頭言】ジャネの法則

ジャネの法則

末光    眞希

4月のお誕生会に出ました。何を隠そう私も4月生まれです。それも4月1日生まれ!この国の法律では、誕生日の朝午前零時にはすでに齢(よわい)を一つ重ねたことになるので、たとえば「4 月1日現在で満6歳であるべし」という小学校の入学基準からすると4月1 日生まれは3月31日生まれと同じ早生まれになります。かくして私は幼稚園からずっと、つねに学年で一番若い存在でした。

体力が劣るので、その分、口達者な子どもでした。野幌では幼稚園までよく走りました。走らないと遅刻するのです。通園路の途中にヨハネ寮(酪農学園はキリスト教系です)という学寮があり、そこの寮母さん(「ヨハネのおばさん」とみんな呼んでいました)が声をかけてくれます。「マキちゃん、はやく行かないと遅刻するよ!」礼儀正しい私は立ち止まって答えます。「おばさんがそうやって僕のこと呼び止めるから、ますます遅くなっちゃうんだよ!」生意気なガキでした。

大学を定年退職するときのルールは「年度内に 65 歳に達した教員は3月31日に定年退職すべし」というものでした。私は庶務課に聞きました。「私って、今度の3月31日ではまだ 64 歳ですよね。もう一年働けるのでは?」返事が来るまで三日待たされました。送られてきたのは明治時代の民法の写し。「尚、ここで誕生日とは生まれた日の前の日のことを言う」とか何とか無理なこじつけが書いてあり、見事に退職も同学年の仲間と一緒にさせられてしまいました。世の中、そう甘くはありません。

「ジャネの法則」というのをご存知でしょうか。私たちが感じる時間の心理的長さは、感じるその人の年齢に反比例するというものです。例えば5歳児にとっての 1 年は、35歳の親の1年の7倍の長さに感じられるというのです。ああ、何と非情な法則でしょう。そして何と真理性に富んだ法則でしょう。私の 14 倍の価値を以て日々を過ごす子どもたちを見ながら、羨ましいと思わずにはおれません。そしてこれほどまでに大切な彼らの一日を、けっして無駄にしてはいけないと心に誓うのです。

(もりのこどもえんだより2022年6月号掲載)