新入生の皆さんへ
宮城学院女子大学 学長 末光眞希
本学に御入学の皆さん、本学大学院に御進学の皆さん、おめでとうございます。
コロナ禍に陥って1年が経ちました。1年経ってはっきりしたことはウイズ・コロナなど、とんでもないということです。私たちの社会にはワクチン接種者も含め、抗体保持者がまだ全然いないのです。感染者が1桁になったとちょっと気を抜いて、ただちに感染爆発を起こしています。この1年間、私たちの頭はコロナについてずいぶん学びましたが、私たちの体は何も学んでいないのでした。私たちに出来ることは新型コロナウイルスを遠ざけること、ウィズアウト・コロナしかありません。
新型コロナ・パンデミックは私たちの社会の最も弱い部分を直撃しました。この事実は、この時代を切り開く鍵を握るのが女性であることを強く示唆しています。女性こそは<弱さ>のよき理解者だからです。今から1年前、封鎖された武漢の街中で作家方方(ファンファン)さんは「武漢日記」を著し、「一つの国家が文明的かどうかを計る尺度はたった一つ。それは、その国の<弱者>に対する態度なのです」と書きました。ハーバード大学のドナ・ヒックス教授は「生きとし生けるものが持つ価値と<弱さ>」こそが個の尊厳であると定義しました。これらの言葉は、私たち人間一人ひとりが根源的に持っている<かけがえのない弱さ>に気付かせてくれます。気付いたのが二人の女性であったことは、けっして偶然ではないでしょう。女性は<弱さ>を通して、人間を深く洞察することができるのです。ここに女子大学が存在することの今日的意味があります。女性の視点から社会と関わる本学だからこそ見えてくるポストコロナ時代の生き方があると思います。
本学が今から135年前、宮城女学校として女性のための学び舎として建てられたのも、当時の日本女性たちが今よりはるかに弱い存在だったからでした。アメリカから派遣された宣教師団の女性たちは「日本には女子の学校が必要です、女子に、人は神の前に平等であることを教えるべきです」と本国に手紙を書き送り、この祈りが聞かれて献金が集められ、日本人キリスト者押川方義に託されて仙台に女学校が開かれました。これが宮城学院の前身、宮城女学校です。1886年・明治19年のことでした。昨年の三月末からNHK・BSプレミアムで連続テレビ小説「はね駒」が再放送されましたが、その舞台となった東北女学校はこの宮城女学校がモデルです。
本学のスクールモットーは「神を畏れ、隣人を愛する」です。「神を畏れる」ことは人が等しく持つ<神の前の弱さ>へと導き、人間の根源的<弱さ>へと気付かせてくれます。イエス・キリストの使徒パウロは、ギリシャのコリントという町の教会に宛てた手紙「コリントの信徒への手紙Ⅱ」の中で(12章)、自分がイエス・キリストから受け取った言葉を次のように書き記します。「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮される。」そしてパウロは続けて、「わたしは弱いときにこそ強い」と書くのです。女性の本当の強さがここにあります。
皆さんの大学生活が、ご卒業にいたるまで、豊かに神様の守りのうちにあることをお祈りします。
ご入学、おめでとうございます。
2021年4月5日
宮城学院女子大学
学長 末光眞希