新入生へ贈る言葉
2020年4月3日
新入生へ贈る言葉
宮城学院女子大学学長
末光 眞希
本日、入学式を迎えられた皆さん、そして大学院に進学された皆さん、おめでとうございます。新型コロナウィルスの恐怖が世界を襲(おそ)う中、「おめでとうございます」と口にすることに、私たちは皆、ためらいを覚えています。しかしたとえどんな大きな困難の中にあろうとも、皆さんが人生の本当に大切な第一歩を今日この日踏み出された、そのことの重さは微塵も変わりません。むしろ大きな恐れに包まれているただ中にあって、皆さんは青春の大切な4年間をすごす場として宮城学院女子大学を選んだ、私たちは皆さんをお迎えした――そのことの重さを、ご一緒に強く心に刻みたいと思います。
宮城学院女子大学の依って立つキリスト教の聖書には、「恐れるな!」という言葉が365回出てくると言われています。私たち教職員一同は、皆さんとご一緒に、日々「恐れずに」この困難と闘って行きたいと思います。その決意をこめて、私はいま皆さんに心から、「ご入学おめでとうございます!」と申し上げます。
宮城学院は日本の女子教育の進展に大きな役割をはたしてきました。今から150年前、明治新政府は身分によらない平等な教育によって近代国家を建設しようとしました。素晴らしい理念です。しかしそれでもなお、女子の高等教育は文教政策の片隅に据え置かれたままでした。そんな中、キリスト教が日本の女子の高等教育に果たした役割は極めて大きいものがあります。海外からの宣教師たち、そして日本人キリスト者たちは、共に働いて明治の初めから明治20年代にかけて全国各地にキリスト教系の女学校を作りました。現在、女子学校にミッション系が多いのはそのためです。なぜキリスト教会は女学校を積極的につくったか。それは教会が、神の前に人はみな平等、女も男も平等である、そういう「信仰」を持っていたからです。仙台にあっては、アメリカの改革派教会から派遣された宣教師団の女性たちが「日本には女子の学校が必要です、女子に、人は神の前に平等であることを教えるべきです」と本国に手紙を書き送っています。この祈りが聞かれ、献金が集められ、押川方義(まさよし)に託される形で仙台に神学校と女学校が開かれました。これが現在の東北学院と宮城学院です。1886年・明治19年、今から134年前のことです。三月末(すえ)からNHK BSプレミアムで連続テレビ小説「はね駒」が再放送されていますが、初期の宮城学院がその舞台となっています。第二次世界大戦後に社会が民主化され、女子への大学教育が認可されますと、1949年・昭和24年、宮城学院は、いち早く女子大学を開設しました。宮城学院は、一貫して高等女子教育のフロントランナーだったのです。
昨年、開学70周年を迎えた宮城学院女子大学は「共生のための多様性宣言」を表明し、本学で学ぶことを希望するトランス女性、すなわち戸籍上男性であっても性自認が女性である方を受け入れることを宣言しました。本学が日本の私立大学として初めてこの受け入れを表明できた背景には、宮城学院同窓会の深い理解がありました。隣人愛に立ってすべての人の人格を尊重するという建学の精神を受け継いだ同窓生たちは、この多様性宣言を、とても宮城学院らしいことと歓迎してくれたのです。多様性宣言には本学134年の歴史が宿っていることを、私は誇りを以て皆さんにお伝えしたいと思います。
宮城学院のスクールモットーは『神を畏れ、隣人を愛する』です。「畏れ」という言葉に少し怖いイメージを持たれる方がおられるかもしれません。モットー後半にある「隣人を愛する」を先に読みたいと思います。<隣人を愛することにおいて神以外の何者をも恐れない、勇気を持って共に進もう!>――そう、読みたいと思います。
私はある合唱団の指揮者を務めているのですが、昨年、世界トップクラスの合唱団であるスウェーデン放送合唱団から「仙台で一緒にコンサートを開きませんか」という夢のようなお話を戴きました。世界一の歌声で、震災復興に励む若者たちを応援したい!そう思ったのですが、どうしても予算の折り合いがつきません。泣く泣くお断りしようとしたその時、団員の中の幾人かの女性たちが「お金のことでこんな素晴らしい機会を逃すなんて情けない!」と、自ら動いて多額の寄付金を集めてくれました。宮城学院女子大学グリークラブのOGたちでした。彼女たちの勇気ある行動が呼び水となって多額の寄付が集まり、コンサートは大成功となりました。篤い感謝の言葉を彼女たちに送りますと「宮城学院では『人の役に立つ事を喜びとしなさい』と教えられましたから」と、さりげなく返事が返ってきました。
皆さんがお入りになった大学は、このような大学です。皆さんの中には、あるいは本来の志(こころざし)叶わない中で宮城学院への入学を決めた方がいらっしゃるかも知れません。しかし私たち教職員一同は、皆さんが卒業式の日に、宮城学院女子大学を選んで本当に良かった、そう思われるであろうことを確信しています。皆さんの大学生活が、その卒業・就職にいたるまで、豊かに神様の守りのうちにあることをお祈りいたしまして、学長からの式辞といたします。