2月12日(月・振休) 仙台市の日立システムズホール仙台で、2017年度宮城学院女子大学特別共同研究プロジェクト「越境の文化的創造力」の研究成果報告シンポジウムを開催しました。
人間は、モノや事象に名前をつけ、自他を区別し、時間や空間を区切り、分類体系をつくって世界を秩序づけます。その枠組みは、人間が生きるために必要なものではありますが、一方で人間を縛るものでもあります。こうしなければいけない、こういうものだ、こうするのが「絶対に」正しいという思い込み。人間が生きるためにつくった「枠組み」は、逆に呪縛となって人間を縛ります。でも、人間は、その縛りを乗り越える知恵を育んできたはず。その知恵を、さまざまな領域の研究から探ってみよう。それは、自分と異なる存在、価値を認めない、不寛容で偏狭な空気が蔓延する昨今、人文科学領域の研究者ができるひとつの社会貢献につながるのではないか。そして、その成果を社会と共有する際、表現芸術とつなぐことで、より広くアピールすることができるのではないか。天童睦子(女性学)、大内典(音楽文化学)、なかにしあかね(作曲・ピアノ伴奏)、吉村典子(イギリス文化)、太田峰夫(音楽学)の5名からなるチームは、そのような目的意識をもって、1年間、共同研究に取り組んできました。
その成果を発表するシンポジウム。前半は、研究発表(大内、太田、吉村、司会・コメンテーター:天童)。日本中世の仏教と世俗歌謡・文芸とのダイナミックな関係(大内)、ロマの楽器ツインバロムがハンガリーの一種の国民楽器に変貌していく動態(太田)、イギリス・ヴィクトリア朝時代の絵画世界において、「正統」とされた様式を超えて新たな表現法や美の概念が生み出された様(吉村)が論じられました。
後半は、演奏発表。ヴィクトリア朝時代から20世紀初頭のイギリス歌曲の歴史とその社会的背景を踏まえた上で、そのようなイギリス音楽をいかに現代の音楽活動に活かしうるかを演奏で提示する研究(なかにし)。イギリス歌曲演奏では日本を代表する歌手である辻裕久氏(テノール)と佐竹由美氏(ソプラノ)を迎え、なかにし教授のピアノ伴奏で成果が発表されました。
当日はあいにくの大雪でしたが、会場は知的刺激と美しい音楽で満たされ、来場された方々も大きな手応えを感じてくださったようでした。
(文責:大内 典)