【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の12
深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

「宿なし」となって、まずは人の施しに頼ることにした玉ちゃん。
しかし、どんなに物乞いをしたところでご馳走にありつけるはずもない。…とわかった玉ちゃんは実力行使に出る。自らの人生は自らの手で切り開くのである。
と、こういえば何やらかっこよさそうだが(笑)、要するに「どろぼう猫」になるのである。
生きるため、食べるためにどこかの家から「かつぶし箱」を盗み出した玉ちゃんは、屋根の上で「曲者、待て!」と呼び止められる。
「何を小癪な、この仔猫。曲者とは誰がことだ」
何やら歌舞伎っぽい、芝居がかった場面である。
なるほど、我らが玉ちゃんは豆絞りで面を包み、弁慶格子の着物を身にまとっているではないか。
弁慶格子は『義経千本桜』のいがみの権太や『妹背山婦女庭訓』の鱶七、「お染の七役」の土手のお六など、いささかならず手強い人物たちが身につけている、シンプルながら力強い意匠/衣裳である。
さて、この頃になると、玉ちゃんはもう「ちゃん」付けするのが憚られるほど大人になっているらしい。何しろ、当の玉ちゃんが自分を制止した猫を「この仔猫」呼ばわりしているのだから。
というわけで、かつての可愛いらしい「玉ちゃん」はどこにもいない。
見れば、その首に赤い首輪も結んでいない。鈴もどこかでなくしてしまったらしい。さすがの玉ちゃんも、もはや一人で生きる辛さを知っている。宿なし、野良猫として生きることの難しさも知っている。物乞いをして生きるみじめさも知っている。
そして、独力で生きることを選んだオス猫は、危険をも顧みず、泥棒稼業をひた走ることになるのである。
<其の13へ続く>
