【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の11

【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の11

深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

帰るべき家を失った「宿なし猫」はこの先、どうやって生きていったらいいのだろう?

「ゴロニャゴ、ゴロニャゴ、なんぞお余りを下さい」

猫たちは気持ちがいいと喉を鳴らして甘えた声を出す。玉ちゃんも家々を回り、可愛らしい猫なで声で哀れを誘い、何とか食事のお余り、おこぼれを恵んでもらおうとしているようだ。

すると、一軒の家で裏口の木戸が開き、当家の女中猫だろうか、魚の骨を持ってきてくれた。

「さあ、トトの骨だよ」

昨今使われなくなって久しいが、「カマトト」のトト、某菓子メーカーの「おっとっと」など、「魚」を意味する女性語、ないし幼児語である。

魚のにおいに惹かれて始まった玉ちゃんの冒険の旅。しかし、ようやくありついたのは魚の骨。おかかご飯など夢のまた夢。むろん、ないよりはまし。とはいえ、こんなもので空腹は満たされない。

さて、本図の玉ちゃんはゴザ、筵のようなものを身にまとい、丸い塗り物の器をささげ持っている。

乞食、物乞いの類を俗に「菰かぶり」という。
かの松尾芭蕉も「おくのほそ道」の旅に出る際、故郷伊賀国の友人に「今年の旅はやつしやつして菰かぶるべき心がけにて御坐候」と書き送っている。

乞食、菰かぶりは飯椀などを持参して家々を回り、食を乞う。この器を「御器(ごき)」といい、「御器を提げる」といえば、物乞いをする、乞食になるという意味になる。

かくして「まぐれ猫」「宿なし猫」となった玉ちゃんは、お昼寝にぴったりの縁側を失い、爪を研ぐ障子も失い、菰をかぶり、乞食、物乞いの類に身を落とすのであった。

 

<其の12へ続く>