【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の3

【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の3

深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

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「食い初め」「百日(ももか)祝い」「真魚(まな)はじめ」「箸揃え」は生後一二〇日ごろ(大阪は一〇〇日)、赤ん坊に箸を使って食事の真似をさせ、健やかな成長を祈る祝いの儀式である。

「もお、まんまを食べてもいいかえ? 坊はおかかがいいよ」

画面左下に見えるのはアワビの貝殻である。床や畳を汚さないよう、角盆の上に餌皿を乗せている。江戸時代、猫の餌皿といえばアワビの貝殻が定番であった。

お腹をすかせた仔猫が食べたがっているのは「おかか」つまり鰹節である。

かつおぶしの誕生は室町時代にさかのぼる。これが江戸時代に煮熟・焙乾を経た「荒節」となり、享保ごろに製法が工夫され、何度もカビ付けをして乾燥・熟成を進めた「枯節」が生産されるようになった。

今では手軽に入手でき、ごくありふれた食材のように思われている鰹節だが、江戸期から昭和初期に至るまで、鰹節はもっぱら祝儀・贈答用の高級品で、なかなか一般庶民の口には入らなかったという。その鰹節をさりげなく「猫の餌」として与えているのだから、飼い主一家はかなり裕福とみえる。 【参考】宮内泰介・藤林泰『かつお節と日本人』岩波新書

ちなみに「猫にかつおぶし」という諺がある。これは、たんに猫の好きな物が鰹節である、というだけでなく、「盗人に金の番」 と同様、不用意に預けると過ちが起きやすいという戒めである。

ところで、画面をよく見ると、仔猫は赤い涎掛けに、鈴のついた赤い首輪・首綱を結んでいる。

かの『枕草子』でも、赤い首綱をつけた猫を「なまめかしいもの」(優美で好ましいもの)と記しているが、猫の首に鈴をつけるようになったのは、おそらく江戸時代以降だろう。それは鼠を寄せ付けないためであり、かつまた猫の居場所確認のためだったのではなかろうか。

<其の4へ続く>