【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 其の2
深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

よし藤
歌川芳藤。本名西村藤太郎。雅号一鵬斎。文政十一年(一八二八)生、明治二十年(一八八七)没。幕末~明治期の浮世絵師。歌川国芳の門人。
芳藤は浮世絵師として武者絵、合戦絵、開化絵、美人画などを描いたが、そのかたわら子ども向けのおもちゃ絵を手がけ、その丁寧な仕事ぶりと作品の愛らしさから、「おもちゃ芳藤」とも呼ばれた。
大橋堂
屋号小田原屋。代々、児玉弥七を名乗る。また小田原屋弥七、大橋屋弥七とも称す。幕末~大正期の絵草紙屋(版元=出版社)。店舗は浅草寺のあたりにあった。
備 考
よし藤の「膝の上猫の寿古六」は東京都立中央図書館所蔵資料。本作には一部摺り色違いのものがあり、都立中央図書館はその両方を所蔵している。
凡 例
以下、余白等に書きこまれた文字の翻刻は仮名遣いを含めて原則原文通りとするが、解説では現行仮名遣いで表記する。

母猫一匹、仔猫は二匹。
母猫が仔猫に添い寝して、毛づくろいをしている。
一匹は座布団をあてがわれ、大人しく母猫になめてもらっている。もう一匹は母猫の背中によじ登り、ぺろりと赤い舌を出して母猫をなめている。
「坊は大きくなったねえ。
よくなめてきれいにしてやりましょう」
思わず笑みがこぼれそうになる。なんとうるわしい、心あたたまる情景だろう。
芳藤が描くのは猫の絵であると同時に、猫に化した人々の姿である。子どもに恵まれ、子を慈しむ親たちの幸せがこの一枚にあらわされている。
猫の舌には糸状乳頭という小さな突起がたくさんある。猫の舌がザラザラしているのはそのせいである。これがブラシの代わりになる。
糸状乳頭から出るのは唾液である。猫の唾液は弱アルカリ性で、それじたい殺菌効果がある。
猫たちは、さほど大きくならず、かつ犬と違って自分で毛づくろいをする習性があり、もともと「きれい好き」な動物だったので、室内で飼うのに適していた。
猫たちはまた、家財や食料などに害をなす鼠たちを駆除してくれる「益獣」でもあった。そのため、慶長七年(一六〇二)に猫を放し飼いにするよう命じるお触れが出され、猫を飼う家が増えていった。
画面右側に描かれているのは竹で編んだ籠。これは「いづみ」「いづめ」「いじこ」「えづこ」「えんつこ」「つぐら」の類であろう。
「いづめ」の語源は「飯詰」。飯を櫃ごと保温するための藁製の籠のこと。「えづこ」は「嬰児籠」。いずれにしても、乳幼児を入れておく籠のことである。
ちなみに、よし藤の師匠、大の猫好きで知られる歌川国芳が手がけた『朧月猫の草紙』では、猫が本図のような籠(みかん籠)の中で出産する場面がある。
<其の3へ続く>
