【連載】歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 連載開始の弁

歌川芳藤「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を読む 連載開始の弁

深 澤 昌 夫(日本文学科 教授)

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昨年度(2025年度)、日本文学科では学科の教育推進研究として、幕末・明治期のおもちゃ絵を読む会(おもちゃ絵研究会)を企画した。この取り組みは、もとをたどれば2019年、宮城学院女子大学開学70周年にあわせて開催した「日文ねこ展 吾輩も猫である―日本文学史の中のネコたち」に端を発したものである。

2019年の「日文ねこ展」の中心は、日本文学科らしく、あくまで古典文学だったが、あわせて筆者の手元にある浮世絵やおもちゃ絵等、絵画資料を多数展示して、多くの来場者を集めた。筆者はその後、日本文学科の機関誌『日本文学ノート』に「吾輩も猫である―日本文学史の中のネコたち」を連載中で、日本文学史の中で猫たちがどのように描かれてきたか、古代から近世までの文学作品を紹介し、通時的にたどる試みを行っているところである。

2025年度はそうした取り組みの一環として、幕末・明治期のおもちゃ絵、特に猫を擬人化した一枚摺り浮世絵版画を題材に、①学生たちが変体仮名に接する機会を増やす、②古典文学への心理的ハードルを下げる、③注釈作業を通して作品が作られた時代のことばや風俗・風習・生活感覚を知る、④文学の周辺領域である美術史(浮世絵版画史)にも視野を広げる、⑤グループワークを通して協調性とコミュニケーション能力を養い、プレゼンテーション能力を向上させる、⑥研究成果を文章にまとめ、冊子を編集・刊行する、といった目標を掲げ、おもちゃ絵研究に取り組むことにした。

おもちゃ絵研究会の参加者は、1年尾形佳純、槻田美羽、冨川晴名、長岡春奈、2年石井花香、佐藤碧生、3年加藤律、児玉紅花、三上愛結佳の総勢9名(学年はいずれも当時のもの)。教員チームでは、筆者の他に千葉幸一郎教授、笠間はるな准教授、矢元祥子副手が参加した。

このプロジェクトの特色と独創性は、ひとえに学生たちが「楽しみながら自ら学ぶことができる」という点にある。そもそも「おもちゃ絵」という代物は、幕末・明治期の子どもたちにとって、「玩具」であると同時に、様々な知識を増やすことのできる「教材」でもあった。学生たちが大学で学んでいる、あるいは学ぶことになる、より複雑で深遠な文学作品への導入、ないしは補助線として前近代の子ども向け「おもちゃ絵」を活用することは、学生たちの主体性を養い、「自ら学ぶ」意欲を高める効果があるのではないかと期待したのである。
2025年度のおもちゃ絵研究会では、まず手始めに歌川芳藤の「新板いろはたとへ双六」で目を慣らした後、同じ作者の「膝の上猫の寿古六」(東京都中央図書館蔵)を取り上げた。だが、もともと正課外の自主的な研究会だったため参加者がそう多くはなかったこと、またメンバー間のスケジュール調整が難しかったことなどから(それ以外に選択肢がなく、土曜日の午後に研究会を行うこともあった)、必ずしも十分な議論や検討作業を行うことができなかった。それでも、折に触れて近隣・近県の美術館や博物館に「本物」を見に行くなど、それなりに充実した時を過ごすことができた(5月は山形美術館「まるごと馬場のぼる展」、6月は東北歴史博物館「江戸東京博物館展」に足を運んだ)。研究会に参加してくれた皆さん、本当にありがとう。

結局、研究会としてまとまった成果を残すまではいかなかったが、せっかく語釈や注釈(何がどう描かれているか、「絵」の読解作業)に取り組んだ作品をそのまま眠らせておくのはもったいないと思い、今回「膝の上猫の寿古六」に関する考察・解説・コメントを付して、大学ホームページで少しずつ公開することにした(なお、今回ここに開陳する考察や解説は、おもちゃ絵研究会の成果ではなく、あくまで筆者個人のものであることをお断りしておく)。

奇しくも今年、仙台市博物館で「もしも猫展」が開催されるというではないか(2026年4月17日~6月7日)。猫好きはもちろん、江戸の浮世絵に関心のある方はぜひ足を運んでもらいたい。本学は仙台市博物館、宮城県美術館、多賀城の東北歴史博物館の「キャンパスメンバーズ」に加入しているので、学生や教職員なら常設展は無料、特別展でも半額になる。たいへんお得でありがたい制度である。これを使わない手はない。おそらく芳藤の師匠・歌川国芳の絵も多数展示されることだろう。どういう絵師がどういう猫の絵を描いているか、誰の描いた猫がかわいいか、絵師たちがどれだけ猫たちに愛情を注いでいるか、直にその目で確かめてほしい。いや、こうなると、もはや仙台市博の「もしも猫展」勝手にコラボ、応援企画である(笑)

さて、本題に入る前に、まずこの双六について、また作者について、概略を紹介しておこう。

今回取り上げる「膝の上猫の寿古六」は、東京都立中央図書館の所蔵資料である(ただし、すでに著作権は切れ、「パブリックドメイン」扱いになっている)。本作には色違いの異版(後印)があり、それもまた東京都立中央図書館の所蔵になる。やはり、最初に出たオリジナルの方が色の乗り方が自然で、摺りの状態もよい。

作者の名は歌川芳藤という。本名は西村藤太郎、雅号は一鵬斎という。文政11年(1828)の生れで、明治20年(1887)に亡くなっている。師匠は武者絵(昨今は猫絵)で有名な歌川国芳である。絵師としての評価は、とうてい師・国芳にかなわないとしても、事おもちゃ絵に関してはその丁寧な仕事ぶりと作品の愛らしさから「おもちゃ芳藤」の異名をとる。昨今、浮世絵市場で価格が高騰しているおもちゃ絵界隈では、もっとも高名かつ重要な絵師の一人であり、日本文学科のパンフレット等で飛んだり跳ねたり回したり大道芸を披露してくれている猫たちの生みの親でもある(ちなみに、現在の飼い主は筆者である)。

芳藤の「膝の上猫の寿古六」は江戸(東京)の大橋堂から板行された(刊行年は不明)。大橋堂は屋号を小田原屋という。幕末から大正時代まで営業していた絵草紙屋である。店舗は浅草寺のあたりにあったという。

おもちゃ絵は元来子ども向けであり、実際子どもたちがそれで遊んだりするものなので、後世に残りにくい。それがこんなきれいな状態で残っているということは、よほど大切にされたということだろう。

さあ、それでは、皆さんを芳藤の猫絵の世界にご案内しよう。

*仙台市博物館「もしも猫展」はこちらから: もしも猫展|ミヤギテレビ