史上最速の梅雨明けを迎えた2022年夏。今年4月にメジャーデビュー10周年を迎えたクリープハイプのフロントマンである尾崎世界観氏をお迎えし、日本文学科では約3年ぶりとなる作家特別対談を開催しました。ご存じのように、尾崎世界観さんは小説家としても活躍されています。
日本文学科では、年に2回、作家特別対談を開催してきました。2014年に開始した作家対談には、唯川恵氏、穂村弘氏、中村文則氏、角田光代氏、東山彰良氏、村田沙耶香氏、小池昌代氏、三浦しをん氏、平松洋子氏、佐伯一麦氏をお迎えしてきました。また、2019年には宮城学院女子大学開学70周年を記念し、せんだい文学塾と共催で、角田光代氏、井上荒野氏、江國香織氏をゲストに「せんだい文学塾 in 宮城学院」を開催しています。
作家特別対談は2018年で一区切りを迎えたこともあり、一度終了しましたが、この夏久しぶりに復活することになりました。
7月1日、会場となった礼拝堂に大きな拍手と歓声が響き渡るなか、ゲストである尾崎世界観さんと、作家特別対談で司会進行と聞き役を務めてくださる池上冬樹先生(日本文学科非常勤講師)が登場しました。
登壇された尾崎さん、来場者をぐるりと見渡すと(この日は礼拝堂の2階席も満席となりましたが、尾崎さんは2階席にも絶えず気を配ってくださいました)、「暑いですね」と来場者を気遣う一言。割れんばかりの拍手と歓声が一際大きく鳴り響き、作家特別対談の幕が上がりました。
先ずは『私語と』についてのお話から。『私語と』はクリープハイプメジャーデビュー10周年に合わせて刊行された尾崎世界観さんの初めての歌詞集です。
池上先生は「傷つける」という楽曲に出てくる比喩表現について、とても印象的で素晴らしいと絶賛されました。尾崎さんが「傷つける」を作詞した当時のエピソードを披露すると、会場には笑いが溢れました。尾崎さんは小説や歌詞の中で比喩表現をよく用いると池上先生が説明してくださったように、作家特別対談中も、尾崎さんの言葉には比喩表現がたくさん用いられていたように思います。「ゴミをゴミ箱にめがけて慎重になげるような感覚」「手を振りほどかれてしまうような寂しさ」。絶妙な言葉選びに、池上先生も大きく頷いたり、あっと驚くような表情をされたり、感心されたりしておりました。
話題は小説へと移ります。
小説を書き始めるようになったきっかけや、小説を書くという行為について丁寧に教えてくださいました。池上先生が「どうしてそんなに(比喩とか)言葉がぽんぽんと出てくるんですか?」と問いかけると、尾崎さんは「なぜでしょう……。自然と出てくるんでしょうね」と答えられましたが、尾崎さんが紡ぎ出す言葉に励まされ、慰められる人がどれほど多いことか。ファンの学生たちが口を揃えて教えてくれる「尾崎さん、そして尾崎さんの歌詞や曲は心の支え」 という言葉がすべてを表していると思います。
本当に書くことがお好きなのだと思いました。芥川賞候補となった『母影』について、幼い少女の視点で書いたのは自分が少女について何も知らなかったからだ、と話されたのがとても印象的でした。
事前に募集した質問に丁寧に答えてくださった尾崎さんは、特別対談終了時間を過ぎても、「せっかく仙台に来たのだから」と会場からの質問にも答え続けてくださり、一人一人に真摯な言葉をかけてくださいました。感激して涙をこぼす学生の姿もありました。また、会場の様子を自ら撮影するお茶目な姿も (もちろん会場に集まった学生たちからは大歓声)。最後には花束贈呈が行われ、鳴りやまない拍手の中で作家特別対談は幕を閉じました。
余談ですが、尾崎世界観さんは終演後に2階席にも回ってくださり、そこに集まっていた来場者たちに声を掛けてくださったそうです。始めから終わりまで勿体ないほどのファンサービスに、ただただ感謝申し上げるばかりです。
約3年ぶりに開催することができた作家特別対談。聞き役を務めてくださった池上冬樹先生、そしてお忙しい中仙台までお越しくださった尾崎世界観さん、本当にありがとうございました。会場に集まった宮城学院の皆さん。マナーを守って参加してくださりありがとうございました。礼拝堂に集った全ての方々のおかげで盛会のうちに終了いたしました。