日本文学科では毎年、必修科目「日本文化史」と連動するかたちで「伝統文化教育プログラム」を展開しています。その第一弾として、今年も喜多流能楽師佐藤寛泰師を本学にお迎えして特別講座を開催しました。
前日の雨も上がり、お天気も一息ついた6月12日(火)、白の着物に袴という清々しいいでたちで教室に入ってこられた佐藤師。何だか教室の空気もピリッと引き締まります。
導入部では、能とはどういうものなのか、初心者にもわかりやすくお話してくださいました。1年生は授業でも一通り学んでいるので、だからこそ能舞台、橋掛かり、シテ、ワキ、神男女狂鬼など、専門用語がポンポン飛び出して来ても、動ずることなく先生のお話についていけるわけですが、でも知識として知ってはいても、やはりプロの方のお話はとても興味深いですね。
「さあ、皆さん、いっしょに声を出しましょう」
全員で「謡」に挑戦です。
「まず姿勢を正して」
椅子にもたれかからず、背筋をシャンと伸ばします。
今回用意されたテキストは弁慶・牛若丸で有名な「橋弁慶」の一節です。
それにしても、佐藤先生が謡ってくださったお手本の、なんと圧倒的なこと。先生の声で教室中の空気が振るえ、学生たちの手元のプリントまで振動が伝わってきたそうです(学生談)。まるで講義館の大教室が「声で満たされ」「声があふれだす」リアルな感触。これは、マイクを使って、どんなにボリュームをあげてもこんな感じにはなりません!「梁塵秘抄」とはまさにこのことか!という思いを新たにいたしました。
学生たちは初心者ということで、子方の部分だけ謡います。難しい節もついてないので謡いやすかった、というのもありますが、いや、今年の1年生はよく声が出ていましたよ。やる気がビンビン伝わってきました。
寛泰師が今回お持ちくださった能面は、
般若(はんにゃ)、怪士(あやかし)、そして曲見(しゃくみ)
の三種類です。学生たちの希望者が能面をつけさせていただきました。
洋服姿だとさすがに奇妙な取り合わせになって、見ている方は笑ってしまいますが、
体験させていただいた学生たちは口々に、前がぜんぜん見えないし、特に足元が見えないので怖かった、動けなかった、また紐できつく縛るので頭が痛かった、と言っております。
能楽師さんはそういう状況で1時間も2時間も、謡い、舞い、舞台をおつとめになるわけですから、改めてすごいですね。
さらに希望者に出てきてもらって、能の立ち方、かまえ方、など基本の動きを教えていただきました。いや、実際は動くどころか、じっと立っているだけでも大変です。「動かない」ということがどれほど大変なことか、やってみて初めてわかります。道理で、1回の舞台で数キロも体重が落ちるわけです。能はお腹から大きな声も出すし、常時いい姿勢をキープしなければならないし、実はダイエットにも有効!?かもしれません。
今年もあっという間の90分でした。
今回は特別のご配慮をいただいて、講義終了後、能面を間近に見せていただきました。
やはり、本物は違います。
ガラス越しの陳列物、とも違います。
佐藤先生、今年もありがとうございました。貴重な体験をさせていただきました。学生たちも口々に、仙台で行われる12月の公演「能への誘い」が楽しみだと言っております。
さて、プロの能楽師さんから「能」を学んだあとは、「歌舞伎、カンゲキ!」です。今年は尾上菊之助丈の舞台をみんなで観に行きます。