日本文学科は日本文学会と共催で、国内だけでなく海外でも評価の高い中村文則氏(芥川賞作家)と池上冬樹氏(文芸評論家・本学非常勤講師)の特別対談一般公開イベントを行います。
日時 2015年7月1日(水) 14:10-15:30 (開場13:30)
会場 宮城学院女子大学礼拝堂
学科、学年はもちろん、学内、学外問いません。事前申し込みも必要ございませんので、直接会場にお越しください。また、駐車場には限りがございますので、学外からお越しくださる際は公共交通機関をご利用ください。当日はサイン会も予定しています。ご期待ください。
同時に、関連イベントとして
宮城学院女子大学大学図書館×日本文学科
特設展示「中村文則の世界」
6.8(月)-7.10(金) 第一閲覧室
宮城学院生協×日本文学科
「中村文則ブックフェア」
6.1(月)-7.10(金) 書籍コーナー
宮城学院女子大学日本文学会×日本文学科
特設展示「中村文則を読みつくす!」
6.8(月)-7.10(金) 日本文学科図書室
*日文生限定
宮城学院女子大学日本文学科副手室
個人企画「なかむらふみのりを知る」
6.3(水)-7.31(金) 日本文学科副手室前(A450)
も開催します。こちらにも足をお運びください。
多くの皆さまのご来場をお待ちしております。
(6/13追加)今回の対談にむけて、司会進行役を務めてくださる池上冬樹先生より中村文則氏の紹介文をいただきました。
*******
「中村文則さんは間違いなく世界的な作家になります。その作家を見逃さないでください」
中村文則さんは芥川賞や大江健三郎賞を受賞した純文学作家ですが、海外ではノワール作家として有名です。ノワール(暗黒小説。心の闇や暗い衝動を生々しく描く犯罪小説)に貢献した作家に贈られる(アメリカの)デヴィッド・グディス賞(過去の受賞作家には巨匠ローレンス・ブロックやジョージ・P・ペレケーノスなどもいる)を受賞したし、アメリカの老舗のミステリ雑誌の表紙を飾ってもいる。日本では純文学ですが、海外ではミステリまたはノワール。いや犯罪小説(クライム・ノヴェル)といったほうがいいかな。
犯罪小説(クライム・ノヴェル)をさかのぼるとドストエフスキーの『罪と罰』にいきあたります。中村文則は学生のときからドストエフスキーを愛読していて、いたるところでドストエフスキーに触れているし、実際、どれもこれもドストエフスキーばりの絶望と苦悩に彩られた重い犯罪小説ばかり。
中村文則がすごいのは純文学なのにミステリを熟知していて、優れた技巧をもっていること。『去年の冬、きみと別れ』(幻冬舎)などはその最たるもので、どんでん返しを連続させて見事。昨年の各誌のミステリ・ベストテンを賑わせた。いまや純文学ファンよりもミステリファンのほうが注目度は高いかもしれない。
最新作『あなたが消えた夜に』(毎日新聞出版)の書評を共同通信に書きましたが、サイコ・スリラー風の警察捜査小説ではじまり、第一部終了間際に大きなどんでん返しがあり、第二部以降全く予想もつかない展開となり、遠藤周作やグレアム・グリーンを想起させる宗教文学へと接近していく。
いったいどうしてこんな物語になるのか。ミステリではじまってどうしてこんなに遠いところまで来れるのか実に不思議だし、この振り幅の大きさ、内容の豊かさこそが、海外で高く評価される理由でしょう。
芥川賞作家・大江健三郎賞作家なのにミステリファンが狂喜している。いや多くの小説ファンが狂喜しているし、そのなかには俳優の綾野剛や芸人又吉直樹もいる。とくに文学好きで、デビュー作『火花』が高く評価されている又吉直樹が、中村文則のもっとも良き理解者かもしれない。
「中村文則さんは特別な作家だ。小説という概念が生まれて以降、様々な作家が人間を書こうと多種多様な鍬(くわ)を持ち土を垂直に掘り続けてきた。随分と深いところまで掘れたし、もう鍬を振り下ろしても固い石か何かに刃があたり甲高い音が響くばかり。その音は人間の核心に限りなく迫るものがあったし、人間の心に訴える強力な力もあった。そこで今度は垂直に掘り進めてきた穴を横に拡げる時代に突入した。それに適した鍬が数多く生まれた。そうしてできた変わった形態の穴は斬新と呼ばれたりもした。新しいものは新鮮でとても愉快だ。だが愉快と充足を感じる一方で何かを待望するような飢餓の兆しを感じはじめてもいた。
そんな世界に於いて、中村文則という稀有な作家はこれ以上掘り進めることはできないと多くの人が諦観するなか、鋭く研ぎ澄まされた鍬を垂直に強く振り下ろし続けていた。そして、固い岩に少しずつ鍬を食い込ませていく。」(又吉直樹/中村文則『何もかも憂鬱な夜に』(集英社文庫)の解説より)
「中村文則という稀有な作家はこれ以上掘り進めることはできないと多くの人が諦観するなか、鋭く研ぎ澄まされた鍬を垂直に強く振り下ろし続けていた。そして、固い岩に少しずつ鍬を食い込ませていく」という表現が、まさに、中村文学の偉大さを的確に語っていると思う。「これ以上掘り進めることができない」と誰もが思ったところを、彼は掘り進め、多くの人に驚きと深い感動を与えているのです。
中村作品は次々に海外に翻訳されています。大きな賞もとるでしょう。ミステリや純文学の垣根なく、広く受け入れられる。あと10年、20年もしたら、まちがいなく世界的な大作家になっているでしょう。その未来の大作家を見逃さないでください。見逃したら、10年か20年後、間違いなく後悔するでしょう。ぜひ7月1日に礼拝堂においでください。(池上冬樹)
お問合せ:日本文学科副手室(外線:022-277-6121 内線:318)