【備忘録 思索の扉】 第五回「行動の三原理」

今回は,私が最近ふと気づいた「行動の三原理」について,お話ししようと思います。
それは,人が何か行動するとき,大きく3つの原理に基づいているのではないか,というものです。
その3つとは,「欲求」,「効用」,「強制」です。順に見ていきましょう。

「欲求」とは,自分の内側から「こうしたい」と思う気持ちです。
「効用」とは,自分や他人にとって「役に立つ」と判断あるいは認識することです。
「強制」とは,自分の意思とは関係なく「しなければならない」という義務です。

さて,現実の問題は,このように3つに分類しただけでは解決したとは言えません。
というのは,この3つは現実的には線引きが曖昧で,「重なり」を持つ部分があるからです。
具体的に言うと,例えば,私は語学の勉強が好きですが(欲求),これはとても役に立ちます(効用)。
仕事で客にサービスを提供するのは,大事なことですし(効用),しなくてはならないことです(強制)。
食事は生きるために必要なことですが(強制),ほとんどの人はこれを楽しんでいると思います(欲求)。

行動の三原理の図以上を図で表すと,右のようになるかと思います。
仮に,「欲求」を黄,「効用」を青,「強制」を赤とすると,「欲求」と「効用」が重なる部分が緑,「効用」と「強制」が重なる部分が紫,「強制」と「欲求」が重なる部分がオレンジになるわけです。
そして,3つの原理がすべて重なる部分もあります。
つまり,好きなことであって,それはとても役に立ち,しかも仕事や義務として求められているような事柄です。
これは,三原色が混ざり合う部分なので,黒になります。

ここまで話すと,気づかれるかもしれませんが,この重なる部分は,生きていくうえでとても重要なのです。
さらに言うと,この重なりの多さと「幸せ」の度合いは,比例しているのではないでしょうか。

外からやってくる「強制」は,自分ではどうにもならないのですが,
それをなるべく前向きに受け止め,好きになり,楽しむことはできるかと思います。
また,何かしようとすることが,たまたま役に立つというケースももちろんあると思いますが,
自分で役に立てようと工夫することで,能力はいくらでも開花できるのです。
逆に言うと,好きなことと嫌いなことをはじめから決めつけてしまったり,
せっかく身につけた力を役に立てようとしなかったりするのでは,
重なりの部分が増えることはなく,幸せを感じることは少なくなってしまうかもしれません。
願わくば,より多くの人が幸せを感じられればと思います。

最後に,本学に来て,私のことを知っている人なら,誰でも知っている事実なのですが,
私は,いつでも黒い服を着ています。
このことと,三原理の重なりが黒であるということは,はたして偶然の一致なのでしょうか……。

小羽田誠治 中国語・東洋史学)