日本史学(おもに近世の東北・北海道史)
一般教育科に所属し、教養としての歴史学関連の科目を担当しています。加えて人間文化学科の専門科目である演習、課題研究(卒論)も、その前身である教養科(短大)の教養実習以来引き受けてきました。おもな研究分野は日本近世史・北方史で、江戸時代の東北・北海道に関わる出来事や生活文化をさまざまな観点から読み解くことをライフワークとしてきました。現在は学術振興会の科学研究費の交付を受け、天保の飢饉を中心とした東北地方の飢饉研究に力を入れています。
ここでは研究ではなく、歴史の授業をどのように行っているのか、その一端を紹介してみます。人間文化学科2年次の歴史文化演習の例です。江戸時代の専門知識がまだ乏しい学生が対象になりますが、和紙に筆・墨で書かれた草書体の古文書(コピーまたは本物)を、くずし字辞典をたよりに一字一句解読していくことから始めています。全員が声を出して「…ござそうろう」などと繰り返して読んでいますので、廊下にもその声が漏れているのではないでしょうか。
学部生ならば自力でそれほど読めなくてもかまいません。くずし字、あるいは言い回しから江戸時代人の息づかいのようなものを感じ取ってもらえたらよいのです。
一通り慣れてきたなら、この3、4年実施しているのですが、幕末期仙台藩の「人数改帳」を解読して冊子にしたものをテキストに用い、簡単な集計などの作業を通して、そこから何が読み取れるか考えてもらっています。このテキスト自体、ゼミの学生が卒論を書くために解読してくれたものですので、後輩のゼミ生もこれくらいの史料は読めるようになるという気持ちが生まれるのではないでしょうか。「人数改帳(人別改帳)」は切支丹禁制の徹底を名目に毎年作成された戸籍台帳にあたるものです。仙台藩の場合、各家の家族の名前・続柄・年令・婚姻・生死にとどまらず、屋敷地名、田畑屋敷の所有高、肝入・組頭などの村役、五人組合、旦那寺、鉄砲の所有などいくつもの事柄が書き込まれており、そこから一人ひとりのライフコース、家族や村のすがたがどのように浮かんでくるのか、想像力をめぐらしてもらうようにしています。
そして、それが現代の私たちの身近な問題についても見つめなおす機会になるならば現代と過去との対話が成り立ち、歴史学を授業する側としては本望です。
一般の講義ではこれまで研究してきたことを中心に話してきました。江戸時代は現代につながるところと、そうではない異文化社会のようなところの二面性をもっています。授業を聞いてくれた学生たちが、過去の歴史からから現在を生き未来を切り開いていくうえでの知恵のようなものを、いくらかでも汲み取ってもらえたらよいという気持ちで取り組んできました。
とはいえ、わかりやすく語ることのむずかしさは定年退職を指折りして数える年齢になっても、いまだに抱えたままです。また東日本大震災以後、過去の江戸時代のことを研究したり話したりしていてよいのだろうか(でもそれしか取り得がない)、という悩ましい問題も抱えてしまったように思います。しかしながら、話を聞いてくれる若い人たちが目の前にいることは、過去を未来に向けて橋渡しができるという点において最も幸せなことです。新年を迎えた心境です。
なお、写真は今年度の人間文化学科3年ゼミ生の大学祭展示・函館研修旅行の一部です。研究室前の壁に貼っていますので御覧ください。もう一枚は2年ゼミの古文書解読の授業の様子です。