仙台のまちが大きく変わってきました。駅前には首都圏中心に展開している商業ビルが進出し、地元の商業施設が大手百貨店に吸収され、郊外にはアウトレットモールもできました。その一方で、アーケード街には空き店舗が目立ち、東北随一の商店街にはやや寂しい雰囲気が漂い始めており、仙台のまちの発展を素直に喜べない今日この頃です。
さて、申し遅れました。生活文化学科の厳爽(やん・しゅあん)です。大学では建築系の授業を担当しており、専門分野は建築計画学です。建築計画学?ちょっと耳に慣れない言葉かと思います。実は、建築分野の中ではもっとも人間の日常生活体験に近い学問です。たとえば、なぜカフェや電車のなかで、端っこの席が人気なのか?銀行のATMで並んでいるときに前の人とどれぐらいの距離をとるのか?などなど、だれもが体験したことがあると思います。これは建築計画学のなかの「環境行動・環境心理学」に関わるパーソナルスペースなどの概念によって説明できます。また、モノの使いやすさと同じように、建物の場合はその空間の居心地がよいか、よくないかということが評価の軸となりますが、この「居心地のよさ」を評価する場合にも建築計画学の知見が用いられます。
そろそろ本題に入りたいと思います。みなさんは旅をする時、何を見て、何を楽しんでいますか?名所旧跡、風土料理を堪能することはもちろんですが、私にとってもう一つ大きな楽しみは町を隈なく歩き、街並みを通して地元人の普通の暮らしを垣間見ることです。
たとえば北欧にはすばらしいインテリアと照明があります。暗くて長い冬を乗り越えるための長年の生活知恵から生まれたデザインです。その土地の気候・風土・文化に培われてきた街並み、ライフスタイルがあります。
以下では、昨年に訪れた国々で出会った場面を紹介してみましょう。
■ローマ・イタリア■
ローマといえば、映画「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンが扮する王女アンが無邪気にジェラートを食べていたスペイン広場を多くの人は思い浮かべるでしょう。実際にローマの街を歩いてみると、猛獣と戦わされ、数百名の剣闘士が命を落としたコロッセオから悲鳴が聞こえてきそうですし、果てしなく遺跡が続くフォロ・ロマーノからは古代ローマの繁栄が甦りそうです。いたるところにローマ帝国の歴史の面影が残され、遺跡のなかで繰り広げられているようにさえ見えたローマっ子の日常は、私にとってはやや重苦しいものでした。そんななか、昼下がりのベンチにのんびりとアイスクリームを食べているお年寄り、炎天下の木陰に立ち話をしていた男女の姿は微笑ましく、思わずシャッターを切りました。
■パリ・フランス■
現代建築の父といわれている偉大な建築家ル・コルビュジェの出身国だけあって、最先端の現代建築が常に話題の中心です。エッフェル塔は、いまでこそパリの代表的な景観となっていますが、完成当時は奇抜な外観から大きな議論を及んでいました。そのほか、ポンピドゥー・センター、アラブ世界研究所など、最近ではケ・ブランリー美術館が注目されています。
建築以外にも、美食の天国・ファッションの発信地・花の都として知られているパリはエレガントで華やかなイメージがありますね。でも、公園で思い思いに憩い集う人々、仕事の合間にこっそり一服しているギャルソン・・・このような庶民的な一面も本当のパリの姿であり、愛着がわきますね。
■ボン・ドイツ■
ドイツといえば、まずビール、ソーセージ、そして車を連想するでしょう。エコの先進国としても知られ、スーパーや本屋さんのユニークな絵が描かれているかわいらしいエコバックは思わず買い集めたくなるほどです。また、多くの人の「足」は身体にも環境にも優しい自転車!親子での移動をしやすくする便利な商品も開発されています(写真)。
ライン川沿いに位置するボンは、ベートーベンが生まれた街で中世の街並みが美しい街です。朝6時から開かれる中央広場での朝市は、10時頃になると素早く片づけられ、広場には老若男女が集まり、ボン市民の憩いの場に早変わりします。12月に入ると、ツリーに飾るリースやロウソクなどが並べられ、クリスマスシーズンの到来を告げます。
かつて西ドイツの首都だったこの街には、旧市街から歩いて5分のところにボン大学の広大なキャンパスがあります。大学のキャンパスと言っても、門や塀は一切設けられておらず、なかにはベンチや遊歩道、子供のジャングルジムがあり、大学が街並みに溶け込んでいます。
■北京・中国■
昨年、オリンピックで世界的に注目されていた北京を訪れたのは10月でした。ここではあえて庶民的な北京っ子の暮らしを見てみましょう。
街の中心部にある「天壇公園」。かつては明・清の皇帝が天に対して祭祀を行った宗教的な場所でしたが、現在は観光客や市民でにぎわう観光スポットです。カラオケのグループ、ダンスのグループ・・・みんな真剣な表情です。その傍らでは、車椅子に座っているお年寄り、世間話をしている老婦人・・・みな自分の世界を作っています。
住宅地の一角、川沿いの公園ではトランプを楽しんでいる人、水泳の準備運動をしている人・・・思い思いしている姿が印象的でした。
他人にどうみられているかを気にせずgoing my way・・・これこそ大陸が持つ雄大さでもあり、国民性なのでしょうか。
仙台に移り住んで9年目になります。短いようで長い9年間で、仙台の街並みの個性がどんどん失われ、ミニ東京化してきている現実を目の当たりにしています。外国の観光客の目に、仙台のまちはどのように映っているのでしょうか。ただの異文化に対するもの珍しさではなく、この街で本当に心引かれるワンシーンをカメラに収めることができるのでしょうか?・・・
「いい街」とは人の暮らしに潤いを与え、感性を豊かにする街です。仙台の街はどのように変貌を遂げるのでしょうか。仙台らしさが人の暮らしから見える街にしたい、そんなワンシーンをこの街でも撮りたい・・・学生達と考えている日々です。