教員のリレーエッセイ:音楽科 教授 小山 和彦

作曲を専門にしている小山和彦です。どうぞよろしくお願いいたします。
いきなりですが、初対面の人と、こんな会話をすることがあります。「どんな仕事をされていますか。」「作曲です。」「作曲ですか…(数秒沈黙の後)すごいですね。」このちょっとした間の後の「すごい」という一言に、私は喜んだことがないばかりか、悲しみを覚えることがあります。残念ながら、作曲という仕事がどういうものであるのか、多くの人にとってイメージされていないと実感するのです。一般の方々だけでなく、音楽を専門に学んだ方々にも作曲に対する関心が薄いと感じられることがありますので、作曲とはどのようなものであるのかを、この場を通して少しでも知っていただけましたらありがたいと思います。
文化は、様々な分野において、常に新しい何かが生まれないと芽吹きません。音楽においてもいうまでもありません。例えば、皆さんにとって身近であろうJ-POPなどは、今生きている人たちによって作られ、歌われていますよね。私たちと同じ時代につくられ、演奏され、共有される。これは音楽だけでなく、文化的な活動として、当然のあるべき姿ではないでしょうか。
いわゆるクラシック音楽というジャンルにおいては、完成度の高く、芸術的に価値ある作品が残り、多くのレパートリーが蓄積してゆきました。よって、歴史的に残った作品を演奏し、聴けばそれだけでことが足りると思う人もいるかもしれません。私たちが生きる時代に、新しい作品が生まれなかったら、共有できるものがなくなってしまいます。作曲という仕事は、現代の私たちが共有できる音楽の源を作り出す作業といっても良いと思います。
というと、さらに作曲とは特別なことをしていると思われてしまうかもしれません。作曲をわかりやすく言葉にたとえると、手紙や作文のようなものです(数年前のリレーエッセイにも同様の記述があります)。私は、文章を書く専門家ではありませんが、こうして、エッセイを執筆しています。しかし、長編小説や学術論文を書くとかということになれば、それなりに必要な知識の蓄積や考察、経験、まとめる技術が必要になってきます。
このように考えてみると、短い曲なら誰でもつくることができる気がしませんか。また、短い曲をつくることができれば、言葉だけでなく、音楽でも自分自身の表現ができるのではないでしょうか。
音楽は、多分、人の感情の表現から自然発生的に生まれたのでしょう。悲しいとか、楽しいことを語るのにその気持ちが強いほど、大きな抑揚をもって語られることがあります。いわばこれがメロディーです。聖歌は、敬虔な気持ちで祈ることによって、言葉に抑揚がつき、メロディーが形造られたものではないでしょうか。
楽しい時に、体を動かしたくなることがありませんか。それこそ、これがダンスの起源と考えられるのではないでしょうか。その際に、体の動きが乗りやすい音楽が、ダンスと一緒に演奏されました。これが舞曲です。こうして考えてみれば、作曲というものが、より身近に感じられてくるのではないでしょうか。
まだ、ためらっているかもしれませんね。多分、楽譜を書くことが難しいと感じているためではないでしょうか。自分で歌ったり、何か楽器で演奏できるのであれば無理に楽譜にしなくても良いと思います。楽譜にするのが難しい場合は、音楽の先生や音楽に詳しい友人に手伝ってもらえば良いでしょう。音楽を専門に学んでいるのであれば、作曲をすることは、音楽の基礎能力を向上させる有効な手段の一つです。
私事ですが、ピアノを習い始めたのは、中学生になってからでした。その頃から、即興演奏(むちゃくちゃな演奏でしたが)をたまにしていて、それがきっかけで作曲に興味を持ちました。以来、これまでに数曲のオーケストラ作品を書き、昨年(2021年)は、ピアノ協奏曲第4番を初演しました。皆さんの中にも、何かのきっかけで作曲を始め、将来オーケストラ作品を作曲する人がいるかもしれません。
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さて、私は、それぞれの地域にいろいろなことをする人がいればいるほど、文化というものが大きく開花すると考えています。つまり、それぞれの人が持っている個性を自由に表現出来、受け入れるための豊かな環境があるということです。ですから、私は、作曲をする人が、身近にいることが重要だと思っています。しかし、何かをするきっかけや、学ぶ環境が存在しないと、一人で何かをするのは難しいと思います。そこで、東北の作曲関係者と共に、未来の作曲家コンサートin東北(写真1)、および作曲ワークショップなどの企画(写真2)を定期的に行い、特に若い人々が、作曲への関心、またその面白さを知ってもらう機会を設けています。

音楽がつくり出される、つまり音楽作品が生まれることは、演奏する、音楽を鑑賞するための大前提となります。皆さんにとって、少しでも作曲を身近に感じていただけるのであれば幸いです。

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