教員のリレーエッセイ:日本文学科 助教 山口 一樹

みなさんどうもこんにちは。日本文学科の山口一樹と申します。『源氏物語』を中心とする平安時代の文学作品について研究しています。『源氏物語』は先に生まれた物語と比べてどのようなところが面白かったのか、あるいは作品の内容は成立当時の社会状況とどのような関係にあったのか、といった問題について作中の女房などに注目しながら考えています(画像1)。

物語を読んでいて面白いと感じるのは、読む人によって感想の異なる場合があるという点です。例えば『源氏物語』の場合は、登場人物の心情の解釈をめぐって複数の立場が生じることもあります。主人公光源氏と恋をする女君のなかでは、藤壺という人物の問題が例として挙げられるでしょう。藤壺は、光源氏の父桐壺帝の后にあたる女性です。つまり光源氏は、帝の后であり義理の母にあたる人と関係を持ってしまうわけなのですが、この藤壺が光源氏に対してどのような思いを抱いていたのか、という問題については度々議論が交わされてきました。恋をしてはいけない相手と関係を持った藤壺は、果たして光源氏に惹かれていたのか、あるいはただ困惑していただけなのか、みなさんならどう思いますか。

文学作品の内容は、必ずしも一面的には理解できない場合があるのだと思います。藤壺の心情をめぐっても、散文の表現に注目するのか、あるいは和歌の表現に注目するのか等、力点の置き方で解釈は変わってくるのかもしれません。一つの問題に対して複数の答えがあり得るのを厄介だと感じる人もいるかもしれませんが、そうした性格にこそ文学作品の奥深さがあるようです。授業では、そんな古典の世界を学生の皆さんとアイデアを出し合いながら探っています。「よく分からないね」で終わる場合もありますが、皆であれこれ考えながら古文を読む時間はとても楽しいです。

(画像1)『源氏物語絵巻』より東屋巻の一場面。
左側手前で姫君の髪を梳かしたり、物語を読み上げたりしているのが女房たち。