このたび、心理行動科学科の「現場部」の活動の一環として8月31日に東京羽田にあるJAL安全啓発センターを視察しました。このセンターは、1985年8月12日に御巣鷹の尾根に墜落した日航123便の事故から学ぶために2006年に開館した施設です。
日航123便墜落事故では、乗員・乗客524人のうち520人が亡くなった事故です。現時点でも世界の航空機事故史上、単独機としては最も死者の多い事故となっています。また、乗継便の遅延によってもともとこの便に乗る予定だった多数の乗客が乗れず、一方で、キャンセル待ちをしていた多数の乗客が乗り、そして亡くなった事故でもあります。たくさんの方たちが亡くなっただけでなく、その中には、たくさんの方たちが少しのタイミングのずれによって助かった方、そして同じタイミングのずれによって亡くなった方もいらしたという、膨大な人たちの複雑な想いがこの事故にはあります。
本研修は、本来は前日に事故現場を見てから安全啓発センターを訪れる予定にしていましたが、残念ながら現場近くの土砂崩れのため現場の視察は叶いませんでした。しかし、学生たちは、センターに展示されている事故機の垂直尾翼の一部、事故の原因となった後部圧力隔壁、ひしゃげた座席、亡くなった乗客がしたためた遺書などをまのあたりにし、墜落によって機体に加わったエネルギーのすさまじさに言葉もない様子でした。
センターの視察後、この事故の遺族の集まりである「8・12連絡会」の事務局長、美谷島邦子さんのお話を伺いました。美谷島さんは当時9歳の息子・健くんをこの事故で亡くしました。母としての想いから、遺族をつなぐ役目としての想い、そして、事故を二度と起こしてはならないというメッセージを伝えるお立場からの想い、さまざまな想いを伺うことができました。
学生たちは、視察前に事前学習をしてレポートを提出し、視察後にもレポートを提出します。それらのレポートからは、1人1人がそれぞれの背景によって異なるさまざまな意見が伝わってきます。そのレポートから引率した教員の側が気づかされることもたくさんあります。大学の学びは、学生と教員の双方の学びが交わり合うことで深みが出るんだろうと改めて感じました。
心理行動科学科では、こうした様々な体験を通して心理学を学ぶカリキュラムが特徴の一つです。日本中のどこの大学でもできない経験を少しでも多く、安全に学生さんに提供することが学科の使命だと思っています。人の営みには必ず人の心が関わりますから、すべてが心理学の学びに通じるのです。
このような体験を通して、学生さんに「これ」を感じて欲しいということはありません。それぞれの体験を通して、それぞれの背景と思想の中で「何か」を感じてもらえばそれでいい。これからもこの活動を続けていきたいと思います。
この現場部視察が、12月6日、河北新報朝刊に掲載されました(Web版でも読めます)。自分がした体験が新聞記事としての価値をもつということもまた、学生たちの学びになります。(大橋記)