卒業生の皆さんへ
学位記授与式 式辞
みなさん、ご卒業おめでとうございます。
長く続いた夏の暑さが次第に遠のき、ようやく秋の涼しさが到来しつつあります。そんな季節の移り変わりの中で、ここに、みなさん9月期卒業の学位記授与式をとりおこなうことができますことをお喜びいたします。そして、何よりもまず、かつて宮城学院を建てあげ、今もまたこれからも守り導き続けてくださる父なる神様に、心より感謝いたします。
今、みなさんは一人ひとり、その大学生活をどのように振り返っておられますか? もちろん、日本中が感染の危険に怯えたあのコロナの3年間は、厳しい経験だったことでしょう。本来皆さんが大学で謳歌しうるはずだった豊かな交友関係や学習活動、社会活動は、オンラインと孤立した学習の日々に置き換わってしまいました。ほとんどの皆さんにとって、不本意で辛い日々だったのではないかと思います。
さらに、今日学位を授与される皆さんは、様々な事情で、今年4月以降、大学生活を半年間延ばさざるを得なくなった体験をお持ちです。事情は様々でしょう。この期間の過ごし方も様々だったことでしょう。当然、この間の評価や意味づけも、ポジティヴ、ネガティヴ、人によって全く異なったものであろうと思います。
しかし私には、人間の人生において何もしないような時間、何もできないでいるような時間には、想像以上に重要な意味があるように思われます。孤独な沈黙の時間が豊穣で豊かな言葉や思想を生み出す事実を指摘したのはドイツの思想家マックス・ピカートでしたが(「沈黙の世界」)、旧約聖書の詩編においても、沈黙が深い神理解と信仰的確信を生み出すというモチーフがしばしば見出されます(例えば、詩編62編のダビデの詩)。
孤独でいなければならない時間、沈黙しなければならない時間、何もできずに無為に過ごさざるを得ない時間、期間。長短あっても全て、それなりに人生上の大切な意味がある。皆さん、どうか、ご自身の大学生活の実際をよくよく振り返ってみてください。そこには、必ずや価値ある経験、有意義な出来事、隠された発見があったことに気付かされるはずです。
宮城学院女子大学で学んだ皆さんは、それぞれの専門分野での学びとともに、何らかの形で、聖書の御言葉との出会いや学びがあったはずです。私は、そんな皆さんの卒業にあたって、聖書の言葉を贈りたいと思います。それは、マタイによる福音書の10章16節、「わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに羊を送り込むようなものだ。だから蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」、です。
イエス様が、弟子たちを宣教の働きに送り出す際に語られたお勧めの言葉です。世の中に出ていって働こうとする弟子たちは、狼の中に送り出されるか弱い羊のようなものだ、だからこそ、一方では悪賢い蛇のように賢くあれ、他方では、それにもかかわらず、平和の象徴である鳩のように素直であれ、というのです。
皆さんは、大学で学んだ専門分野の知識と知恵を携えて、荒波に満ちた現実社会へと出ていこうとしています。そこでは隙のない蛇のような賢さが必要です。しかし、神様が共にいてくださいます。どうか、安心して、言葉と思いと行いにおいて、鳩のように素直であってください。そこに神様の恵みとして、必ずや平和が、新たな生きる力が生まれるはずだからです。
本日はご卒業、まことにおめでとうございます。
2023年 9月 27日
宮城学院女子大学
学長 長谷部 弘