本日ここに、晴れて入学式を迎えられたみなさん、そして大学院に進学した皆さん、おめでとうございます。今年度は学部生793名、大学院生8名、合計801名のみなさんを、この宮城学院女子大学に迎えることができました。みなさんの新しい人生が、この宮城学院女子大学で始まることを教職員一同を代表して歓迎いたします。また保護者の皆様におかれましても、お嬢様が大学生となった姿をご覧になられて感慨もひとしおのことだと拝察いたします。改めてお祝いの言葉を申し上げます。
新入生のみなさんも、これまで無事に生きてくることができたことを神に感謝すると共に、たくさんの愛情を注いでくれた保護者や家族の方々に、この晴れやかな入学式の日に感謝の言葉を伝えていただきたいと思います。それこそが新しい人生の門出にふさわしい、旅立ちの言葉になると思います。
宮城学院は、キリスト教の教えを建学の精神としています。スクールモットーは「神を畏れ、隣人を愛する」であります。これからみなさんは、このスクールモットーをしばしば耳にし、目にしていくことになります。スクールモットーとは、宮城学院が教育の目標として掲げる言葉であり、日常の行動指針ともなる規範のことです。
スクールモットーにある「神を畏れる」とは、神様を怖がることではありません。超越的な存在である神を尊いものと見なして敬うこと、あるいは慎み深い心持ちになることを指しています。畏敬の念といった言葉にあたるものです。その根底には、いま自分が生かされていることを神に感謝する心があります。
自分が神によって、そして家族や多くの人たちの支えによって生かされているということを思えば、これから4年間の大学生活において、自分が何を目的に、どのように生きていくのかということについて真剣に考えていく必要があります。みなさんは本学に入学するにあたって、それぞれに学部学科を選択しました。そのことは、どのように生きていくのかということについての、一つの選択でした。だからこそ、それぞれの学部学科での学びに真剣に取り組み、しっかりと専門知識を身につけていかなければなりません。
専門知識を身につけるということは、その分野のことについては、ほかの学部や学科の人たちよりも知識を多くもつということです。しかし、その学部や学科がカバーする専門領域は広すぎて、そのすべてについての知識をマスターするということは、誰であっても困難なことです。したがって、学ぶべき知識をさらに絞り込んでいくために、ある特定のテーマを掲げた授業をとったり、ゼミに入ったりすることになります。そのようにして皆さんは、ある特定の分野のエキスパート、つまり専門知識を身につけた存在になっていくわけであります。そのことに真摯に取り組んでいけば、おそらく皆さんは、自分が徐々に、日々成長していっていることを実感することになると思います。
このように大学では、皆さんを専門的知識を身につけたスペシャリストにするための教育を提供します。しかし、専門を深めていくだけでは人間形成として十分ではありません。自分が専門とすることはよく知っているが、それ以外のことについては常識がないとか未熟であるということでは大学教育としては不十分ということになります。したがって大学教育のもう一つの大きな目的は、必ずしも分野を限定しない広範囲な知識をもった教養人になってもらうことでもあります。そのために大学には、専門教育のほかに、教養教育の科目をたくさん開講しています。本学ではこれを、一般教育General educationと言っています。この一般教育は、専攻分野に進む上で必要な基礎知識と幅広い教養を学ぶという位置づけになっていますが、要は、多くの学問分野を広く知り、それぞれの学問分野の方法論や解釈の多様さを学ぶということにポイントがあります。それによって、自分が学ぼうとする専門分野以外にも、多くの考え方や異なった価値観が無数といってよいほど存在するということを勉強していくことになります。
では、そのことにどのような意味があるのでしょうか。真の教養人となるためには、幅広い知識をもつと共に、幅広い考え方を受け入れられる存在でなければなりません。いくら多くの専門的な知識や教養としての一般的な知識をもっていたとしても、自分だけの価値観に固執し、それを主張するだけでは、必ずしも教養人とはみなされません。
もちろん、自分の価値観をもつことは大切なことです。大学の教育は自己を確立することを手助けすることにありますので、自分の価値観をもて、ということを、常に言い続けることになると思います。しかし大切なことは、自分の価値観をもつということと、他の価値観を認めないということとは、まったく異なるということです。
みなさんがこれから、自己の考え方を確立していくということは、あなた以外の他の人たちもまた、あなたとは別な価値観をもつようになるということです。友人どうしでも考え方が異なってくるでしょう。教師の言っていることに共感することもあるでしょうし、違和感を感じることもあるでしょう。
大学で、さまざまなことを学ぶということは、過去においても現在においても、実に多様で異なった価値観があるということを認識していくということなのであります。
そのなかで大事なことは、考え方が異なったり違和感を感じたとしても、決してその考え方を一方的に否定してはいけないということです。もちろん価値観の違う異なった意見に同調する必要はありませんし、意見をたたかわせることは必要です。しかし、自分とは違うこうした考え方があるのだということは容認しなければなりません。世の中には様々な考え方があるということを、よく認識すること。それがみなさんに、まず確立していただきたい社会認識のあり方です。民主主義の基礎は、ここにこそあります。
いま価値観の話をしてきましたが、歴史的にみれば、新しい価値観は時代の変化と共に常に生み出されてきています。いつの間にか変わっていたということもありますし、自覚的に変えてきたということもあります。しかし新しい価値観を生み出していくためには、現在の価値、つまりみんなが当たり前だと思っていることを疑い、反省し、批判をおこなって、異なる価値の可能性を見つけ出していくということが必要です。「当たり前を疑え!」ということです。
みなさんは未来を創造する力をもっています。未来は現在の延長ではありますが、現在の価値観がそのまま続くということではありません。物質文明のあり方も、これからどんどん変わります。固定電話が中心だった30年前に、スマートフォンが発明され、これだけ普及すると考えていた人がどれだけいたでしょうか。持ち運びできる電話があるといいなと考えた人たちが携帯電話を生み出し、その電話で映像を見たり音楽を聞いたりできるとよいなと考えた人たちがスマートフォンやタブレットをつくり出したのでした。これからアパートや寮で生活する人たちは、固定電話を据え付けるということはあまりしないでしょう。スマートフォンによってコミュニケーションの取り方だけではなく、生活スタイルまでも大きく変わってしまいました。
価値観は、いまや10年単位で変わっていくと思います。みなさんは新しい価値観を創出する主体であり、母体ともなっていくのです。
宮城学院というこの学び舎で、みなさんは先人が築き上げてきた学問を学び、それをさらに発展させ、新しい価値と価値観を創造していってください。そしてサークル活動にも励み、多くの友人や教職員との交わりを深め、人間としての人格を磨き、教養と学識を深めていってください。4年後の皆さんが自己を確立した、凜とした女性となっていることを心から期待して、私の式辞といたします。
本日は御入学、おめでとうございました。
2017年4月4日
宮城学院女子大学
学長 平川 新