2016年4月4日 入学式 式辞

本日ここに、晴れて入学式を迎えられた皆さん、そして大学院に進学した皆さん、おめでとうございます。今年度は学部生764名、大学院生9、合計773名のみなさんを、この宮城学院女子大学に迎えることができました。皆さんの新しい人生が、この宮城学院女子大学で始まることを教職員一同を代表して歓迎いたします。

 宮城学院はキリスト教の教えを建学の精神としていますが、その根底には、いま自分が生かされていることを神に感謝する心があります。これまで無事に生きてくることができたことを神に感謝すると共に、たくさんの愛情を注いでくれた保護者の方々にも、この晴れやかな入学式の日に、感謝の言葉を伝えていただきたいと思います。それこそが新しい人生の門出にふさわしい、旅立ちの言葉になると思います。

 

 さてここで、みなさんが入学された宮城学院女子大学とは、どのような大学であるのかについて簡単に紹介をいたします。

 本学の前身である宮城女学校は、今から一三〇年前の一八八六年(明治一九年)に、キリスト教の伝道者たちによって創設されたミッションスクールです。明治時代にはキリスト教系の女学校が全国の都市部に次々に創設されていきました。現在でも女子校にキリスト教系の学校が多いのはそのためです。女学校には公立の尋常小学校を卒業した者が入学をしてきました。英語を学び、賛美歌を歌い、オルガンの音が響く校舎はとても魅力的だったと思います。入学者は相当に恵まれた家庭の女子たちでした。以後、宮城女学校は東北地方における高等女子教育のさきがけとして大きな役割をはたしてきました。

 しかし一方で、女子教育に対する風当たりの強さもありました。それをわかりやすく紹介したのが、先週まで放映されていたNHKの朝の連続ドラマ「あさがきた」です。このドラマは、江戸時代生まれの広岡浅子という女性の生涯を描いた番組です。広岡浅子は、明治維新の荒波を乗り切って炭鉱や銀行、そして保険会社を経営した実業家ですが、女子大学校の創設にも尽力した女性でした。ドラマでも描かれていましたが、相当な反発をうけながらも初志を貫徹して女子大学校を設立しました。この大学校は女学校を卒業した女性たちの学びの場となったのですが、福島県相馬出身の磯村春子という女性も宮城女学校を卒業したあとにこの女子大学校に入学し、その後、日本初の女性新聞記者として活躍しています。

 今からちょうど三〇年前の一九八六年にNHK朝の連続テレビ小説として『はね駒』というドラマが放映されていますが、その主人公は、この磯村春子でした。「はねこんま」とは「おてんば娘」のことですが、本学の前身である宮城女学校が三〇年も前にNHK朝の連続ドラマに、女性の人生形成に大きな役割を果たした教育機関として登場していたのです。ぜひ再放送を望みたいところです。

 

 ところで注意しておきたいのは、この日本初の女子大学校は、大学校とは名乗っていますが、大学ではありませんでした。戦前の制度によると女子大学校は専門学校として位置づけられていたのです。こうした男女の教育格差が改善されるのは、一九四八年(昭和二三)に施行された新しい学校制度からです。この制度によって初めて女子大学校も大学として認められるようになりました。

 このように戦前の女性教育には大きな男女差別がありました。しかしそうした困難な状況のなかで、ミッション系の女学校や、女性の地位向上に取り組んできた先人たちが高等女子教育の道を切り開いてきたことを忘れてはなりません。先人たちのこうした努力の延長上に現在の女性教育があり、皆さんの大学進学があるからです。

 そして一九四九年(昭和二四)に宮城学院女子大学、その翌年に短期大学が開設されました。戦後の民主主義社会の幕開けとともに、宮城学院も生まれ変わり、新しい時代の女子教育に携わっていくことになったのです。その後、大学・短大ともに社会のニーズに合わせて幾多の増設を行い、二〇〇七年には学芸学部のもとに一〇学科体制となりました。

 そして今年の四月、従来の学芸学部に加えて、新たに現代ビジネス学部と教育学部、生活科学部を創設し、4学部9学科体制に再編しました。今年は宮城学院創立から一三〇年にあたりますが、その歴史のなかでも、戦後の大学設置以来の大規模改革となりました。学部生のみなさんは新生宮城学院女子大学の第一期生といってもよい入学者だということになります。

 いま日本は少子化の時代に突入していますが、今回の学部再編はそうした時代を読み取りながら、現代および近未来の社会が求める女性像を的確にキャッチし、人材養成力をさらに高めるための施策です。各学部各学科において、皆さんの学びと経験が深められるよう、本学の教職員がサポートしていきます。皆さんはこの大学でみずからの人生の基礎を固めるようがんばってください。

 

 ところで皆さんが入学されたのは女子大学です。一昨年の二〇一四年のデータによれば、全国の大学数七八一校に対して女子大学は七五校で一二%です。女子大学の割合は小さくくなってきており、全国的には女子大学から共学への転換が進んでいます。しかし男女平等や男女共同参画といった観点から見たときに、じつは女子大学であることが女性の自立にとって大きな役割を果たしているという、最近の興味深い研究を紹介しておきます。

 大学を卒業した女性のライフヒストリーを分析したこの研究によると、男女共学の出身者よりも、女子高や女子大出身者のほうが、結婚しても出産しても仕事をやめない割合が高いと指摘されています。つまり女子校出身者のほうが離職率が低い、という結果が出ているということなのです。もちろん女子校出身者でも結婚や出産を機に仕事をやめる人はいますし、共学出身者でも仕事を続ける人はいますから、あくまで「一定の傾向」を示すものにすぎません。

 しかしそれにしても、なぜ女子高・女子大出身者は離職率が低いのでしょうか。男女共学というと、男女が平等に扱われていて、一見良さそうに見えます。しかし逆にいえば、男女共学の大学では、女子学生だけを対象にした授業科目や支援体制をつくりにくいということでもあります。

 一方、女子高や女子大では、「自立した女性」を育てようとする教育方針のもとに、女性のための学びや支援の体制をつくりやすくなっています。女子大学だからこそ、女子学生のための学びのプログラムが提供され、在学中から自立した女性の生き方を考えやすいということなのです。そのことが卒業後の生き方にも反映しているのではないかと、この研究者は指摘しています。

 これに関連してもう一つ、別な研究者の分析を紹介しておきます。この研究によれば、「男女共学」になれば男女の平等が達成できるかというと、それほど単純ではないと指摘しています。むしろ男女共学の高校や大学ほど「平等原則」を掲げるだけに、ジェンダー・バイアス(性にまつわる偏った見方)は表に出ずに見えにくくなり、潜在化したまま再生産されやすいというのです。

 これに対して女子高や女子大では、教育に携わる教職員は、カリキュラムの構成や指導・サポートなど、教育の多くの場面で、ジェンダー(男女の性差)という問題を意識しており、男女平等の意識と実践に注意を向けている、と評価しています。すなわち女子高・女子大での教育のほうが、教育における男女平等の実践に重要な役割をはたしているということであります。このような研究結果をみると、男女共同参画の時代であるからこそ女子大学で学ぶことの意義が高まっているということができます。

 また男女共学の大学では男子学生に任せたり依存したりする傾向があるが、女子大学は女性しかいないから自分たちで何でもやる力がついてくるとも言われています。つまり女子大卒の女性のほうがリーダーシップが生まれやすく、チームワークも形成されやすいと評価されているのです。

 

 皆さんがこれから学ぶ宮城学院は、一八九六年の創立以来、女性教育機関として自立した堅実な女性の育成に努めてきました。だからこそ本学院卒業生のなかから、社会で活躍する多くの人材が生み出されてきたのだと思います。今年入学した皆さんは、大いに自信をもってこの宮城学院女子大学で学び、そしてサークル活動に励み、多くの友人や教職員との交わりを深め、人間としての人格を磨き、教養と学識を深めていってください。四年後の皆さんが自己を確立した、凜とした女性となっていることを心から期待して、私の式辞といたします。

 本日は御入学、おめでとうございました。

 

二〇一六年四月四日
宮城学院女子大学 
学長 平川 新