本日ここに、晴れて学士の学位と修士の学位を授与された皆さん、おめでとうございます。本年度は学芸学部662人、大学院人文科学研究科6人、健康栄養学研究科3人、合計671人のみなさんが、宮城学院から巣立つことになりました。所定の課程を修めてこの日を迎えられたみなさんに、宮城学院女子大学を代表して心よりお祝いを申し上げます。
皆さんがこの佳き日を迎えられたのは、皆さん自身の努力のたまものであります。しかし大事なことは、多くの人たちの手助けや厚意に支えられて今の皆さんがあるということです。そして、忘れてはならない最も大事なことは、皆さんを大学に通わせてくださった保護者の方々への感謝であります。皆さんは、当たり前のように大学生活をエンジョイしてきたかもしれませんが、それができたのは、保護者の方々の惜しみない愛情と経済的な支援があったからだということを改めて噛みしめてください。親御さんはあまりそうしたことを口にしないかもしれませんが、だからこそ今日は、保護者の方々への感謝の気持ちを、ぜひみなさんから、しっかりと伝えていただきたいと思います。「これまで育てていただいて、ありがとうございました」。この一言で、これまでの苦労は吹き飛んでしまうことでしょう。
今日は皆さんにとって新しい人生の旅立ちの日であります。これまでの学生時代とは異なり、社会人として、職業人として、そしてやがては家庭人として、さまざまな問題に直面することになると思います。そうしたときに、この宮城学院で学んだこと、経験したことを思い出してください。
女性の生き方は、30年前40年前と比べると大きく変わってきています。かつて、卒業して就職をした女性たちは、やがて結婚や出産のために職場を去り、家事と育児に専念する傾向がありました。しかし現在では、70%前後の女性たちが結婚しても出産しても職業を維持しています。そして退職年齢まで働き続けますので、多くの女性たちも生涯労働の時代になったということができます。
それは女性たちの、職業人としての力を活かしていくことであります。働く女性自身にとっては、みずからの職業的・専門的知識と経験を活かし続けるということですし、雇用する側にとっては、その女性が蓄積してきた経験と知識を存分に活かしていくということであります。また現在は、みずから起業つまり会社を起こす女性も増えてきています。女性が社会的に活躍する場は、広く豊かになってきているといえます。
しかし女性の生き方は、これらだけがモデルではありません。結婚をしない生き方もありますし、家庭や子育てを中心にする生き方もあります。どのような生き方を選び取るかは、置かれた状況にもよりますが、皆さんの考え方と選択によるということを忘れてはなりません。社会として大切なことは、個々人の多様な生き方が保証される「多様性のある社会」であることだと考えます。
最近、女性の生き方に関して興味深い研究を目にしました。それは大学を卒業した女性のライフヒストリーを分析したもので、大学を卒業した女性がどういうときに仕事をやめるのか、あるいはやめないのか、という研究です。そのなかで興味を引いたのは、女子校出身者のほうが仕事をやめない、という分析結果でした。分析のための主な分類は次の四つです。第一は「高校も大学も共学」、第二は「高校は女子高」、第三は「大学は女子大」、そして第四は「高校も大学も女子校」です。
この研究によると、男女共学の出身者よりも、女子高や女子大出身者のほうが、結婚しても出産しても仕事をやめない割合が高いということでした。つまり女子校出身者のほうが離職率が低い、という結果が出ているということなのです。もちろん女子校出身者でも結婚や出産を機に仕事をやめる人はいますし、共学出身者でも仕事を続ける人はいますから、あくまで「一定の傾向」を示すものにすぎません。
しかしそれにしても、なぜ女子高・女子大出身者は離職率が低いのでしょうか。この研究者は、男女共学の高校や大学の出身者の場合、「男だから女だからと意識したことがない」という声を紹介しています。大学のなかで男であること女であることを意識しないというと、男女が平等に扱われていて、一見良さそうに聞こえます。しかし逆にいえば、男女共学の大学では、女子学生だけを対象にした授業科目や支援体制をつくりにくいということでもあります。そのために、「男だから女だから」という意識を持ちにくくなっているともいうことができます。ところが就職して社会に出ると、女性として扱われること、つまり女性差別に遭遇することがしばしばあり、そのときにカルチャーショックを受けて離職しやすいのではないか、とこの研究者は分析しています。
一方で女子高や女子大では、「自立した女性」を育てようとする教育方針があるために持続力が強くなる、ということでした。女子大学だからこそ、男子学生のことを気にせずに、女性のため学びや支援の体制をつくりやすいということであります。この研究者は、女子校出身者の話として、「学校では堅実な女性になれという教育方針でした。確かにそうなった気がするし、周りを見てもそうです。職をもつのも普通ですし、結婚して母親にもなり、地に足をつけた生き方をしていると思います」という趣旨の声を紹介していました。
これに関連してもう一つ、別な研究者の分析を紹介しておきます。この研究者は、「男女共学」になれば男女の平等性が達成できるほど単純ではないと指摘しています。むしろ男女共学の高校や大学ほど「平等原則」を掲げるだけに、ジェンダー・バイアス(つまり性にまつわる偏った見方)は表に出ずに見えにくくなり、なおかつ再生産されやすいというのです。
これに対して女子高や女子大では、教育に携わる教職員は、カリキュラムや教授法など教育の多くの場面で、ジェンダー(男女の性差)という問題に敏感であり、男女平等の意識と実践が求められる、と評価しています。すなわち女子高・女子大での教育のほうが、教育における男女平等の実践に重要な役割をはたしているということであります。
まさに宮城学院は、1886年(明治19)の創立以来、女性教育機関としてのそのような役割を強く意識しながら、自立した堅実な女性の育成に努めてきました。だからこそ本学院卒業生のなかから、社会で活躍する多くの人材が生み出されてきたのだと思います。現在本学では、女性としてライフサイクル(自分の一生)をイメージできるように、キャリア形成のための学習支援や、就職のための学びの場を提供して、女性自身が多様な生き方を選択していくことが可能になる教育をおこなっています。まさに女子大学だからこそできる女性のための教育を提供してきたのであります。
そしてみなさんは、専門的な学問と文化・芸術を学び、幅広い教養を身につけてきました。加えてクラブ活動やさまざまな社会的活動も行ってきました。そうしたなかでみなさんは、人間を形成し、人格を磨いてきました。多様性のある社会で生き抜いていくための人間としての基礎力を、この宮城学院女子大学で築き、鍛え上げてきたのだということができます。そして今日ここに、卒業の日を迎えたのであります。卒業後も、本学での学びを活かして、自立した堅実な女性、そして気品のある女性として生きていかれることを期待したいと思います。
卒業にあたり、ぜひみなさんの心に留めておいていただきたいことがあります。2011年3月11日に発生した東日本大震災。人類史上でも希有な大震災を、みなさんは身近に体験したのであります。近親者や友人を失った方もおられることと思います。被災地の復興の過程を見ながら、みなさんはこの東北の地で学生生活を過ごしてきました。ボランティアとして被災地支援の活動に携わった人も少なくありません。
人間は、こうした大きな試練と向き合い、そしてたたかいながら、幾度も幾度も立ち直ってきました。みなさんは、今まさに、この東北の地が東日本大震災から立ち直る歴史のまっただ中にあるということを認識していただきたいと思います。そして卒業してからも、被災地にある大学で学んだ者として、直接的であれ間接的であれ、被災地の方々の心の復興や地域の立ち直りにかかわり、被災地に心を向けていただきたいと思います。
私たちは、皆さんがその青春の大切な時期を、この宮城学院で過ごしたことを大変うれしく思っています。煉瓦色に包まれたこの美しいキャンパスの風景を、その目と心に焼き付けておいてください。卒業生からお聞きしたことですが、卒業して時間が経てば経つほど母校への愛着が深まる、ということでした。この宮城学院で学び、そして経験したことが、みなさんの人生の礎となり、心の糧となることを願って、私からのお祝いの言葉といたします。
本日はおめでとうございました。
2016年3月18日
宮城学院女子大学
学長 平 川 新