りんごプロジェクト 活動報告

りんごプロジェクトは宮城県の亘理町の特産品である、りんごを教材としたプロジェクトです。

亘理町は、東日本大震災で甚大な被害にあった地域で、今でも仮設住居で暮らしている人たちが多くいます。亘理の中でも沿岸の荒浜や吉田という地区の保育所も、仮設施設で保育を行っています。また、亘理町の農家の方も津波で大きな被害が出てしまったり、津波の被害から逃れた場所でも、原発の風評被害などで大きな損害が出た農家の方も多いとお聞きしています。このプロジェクトはこうした震災の被害にあった亘理町の復興をサポートするという側面も併せ持っています。りんごプロジェクトは、こうした背景から本学の院生が発案で、他学科にも参加者を募り始まりました。

りんごプロジェクトは、レッジョ・エミリアのプロジェクト型保育を創造的なヒントとして、「感じる」「学ぶ」「表現する」、この3つをプロジェクトの三本柱にし、子どもの興味関心に寄り添えるようなカリキュラムをデザインしました。

レッジョ・エミリアとは,北イタリアにあるレッジョ・エミリア市の公立幼児学校と乳幼児センターで行っている保育全体を指しています。ニューズ・ウィーク誌(1991年12月)で,「世界一の幼児学校」と紹介されたことがきっかけで知られるようになりました。レッジョ・エミリアの標語である「子どもたちの100の言葉」には,子どもは100の表現形式を持っているという意味がこめられており、このレッジョ・エミリアで行われているのが,プロジェクト型の保育です。プロジェクト型保育というのは ひとつのテーマについて、子ども達それぞれの関心や好奇心を掘り下げて発展させていく保育の事です。

私達院生も、レッジョエミリアのビデオを保育所の先生方と一緒に見て、ここに載せた「子どもたちの100の言葉」という本を読み合わせてレッジョエミリアの理解を深めていきました。

今回、亘理保育所・荒浜保育所に通う5歳児クラスの子ども達とプロジェクトを全6回に分けて進めていきました。

このプロジェクトは、実際にりんごを見て・触れて・感じて、りんごの“はてな”探しをキーワードにりんごへの関心を深めていきました。“はてな”とは教育学者の有田和正氏の考えることを大切にした実践で用いられている言葉です。園児から出たはてなは、りんごの形のカードに書き、事前に作成していた木に貼りつけ、皆ではてなの木を作りました。リンゴ園へ行きはてなを解決したり、さらにはてなを探しました。また、保育園へ帰ってきた後は採ってきたりんごを見て・切って・食べてさらに学びを深めたり、自分で採ってきたりんごを臨床美術の手法に沿って、“私だけの”りんごを描きました。最後は、1人1人の絵を講評し、それを大きな紙に貼りつけ、一枚の“みんなの”りんごの絵を完成させました。

今回のプロジェクトを終えて、学んだことは、大きく2つあります。

1つ目は、子どもは誰しもが豊かな創造性・大きな可能性を持っており、その可能性は、環境や引き出し方によって変わってくるということです。
1回目のりんごの絵は多くの子がステレオタイプなものを描いていました。しかし、食べたり、自分で切ったり、目をつぶって匂いを感じたり、触ったり、自分のりんごで学びを深めた子どもたちは2回目のりんごの絵では、ステレオタイプなりんごの絵を描く子はいませんでした。また種が涙の形という発言や蜜がハートになってるよという発言を聞いて、どの子もレッジョエミリア市の子どもたちと同じくらい豊かな感性、想像力を持っているのだと感じました。今回は私たちがつくったカリキュラムに沿ってプロジェクトを実行しましたが、レッジョエミリアでは子どもたちの発現を基に保育士、教育学者、アトリエリスタと呼ばれる美術教師がミーティングを開き次のカリキュラムをデザインしています。私たちも来年度のプロジェクトでは、子どもたちの発言の記録を基に、次のカリキュラムを柔軟にデザインしていくことが課題だと感じています。

2つ目は地元の特産品を使ったプロジェクトは、普段何気なく暮らしている地域を見直すきっかけにもなるということです。今回、亘理町の特産品であるりんごをプロジェクトのコアとして進めてきました。亘理町の方々にとっては、まさにこのりんごが、亘理町を代表するものです。子どもたちにふるさとに対する郷土愛を育んでもらえたら、という願いも込められていました。また、このプロジェクトは二つの保育所合同で行われてきましたが、みんなでこのプロジェクトを進めて、みんなで一枚のりんごの絵を完成させたことは、何の隔たりもなく学び合うことにもつながったのではないかと思います。また、この郷土愛と協同的な学びは、震災復興へつながる強い土台となる可能性を感じました。

今回のプロジェクトの経験・学んだことは、保育所の先生方とも互いに共有しあい、分析検討し、次回のプロジェクトに反映し、よりよいプロジェクトへしていきたいと思います。