「やさしい日本語」というものを聞いたことがありますか。「やさしい」という言葉には、「易しい」と「優しい」の2つの意味が含まれています。日本語を勉強中で簡単な日本語ならば理解できる、という人に向けて、通常使っている日本語のレベルを調整して言い換えたり書き換えたりした日本語のことです。相手に対する思いやりの心が土台となっており、日本語学習者だけでなく、母語話者を含めたすべての日本語使用者にとって「やさしい」、配慮された日本語のバリエーションであるといえます。
日本文学科の日本語教育に関する授業では、多文化共生社会において「やさしい日本語」が使用できる担い手を育てるべく、さまざまなプロジェクトを行っています。今回は2020年度に行った2つの活動を紹介したいと思います。
(1) やさしい日本語で読み物作成プロジェクト
1年生の文学語学入門セミナーという授業では学期を通して「やさしい日本語」について学んでいきましたが、最終制作として全員が「やさしい日本語」を使って創作作品づくりに取り組みました。創作した作品はすべて、中国の大学で日本語を学んでいる大学生にプレゼントするというゴールがあり、事前に中国の学生さんからこんな読み物が読みたい!というリクエストをもらって、作品の構想をしました。
例えば「怖い話に興味がある」という中国の学生さんのリクエストを読んだ平山夏帆さんは、そこから江戸川乱歩の「人間椅子」を紹介する読み物を作成しました(写真は作品の一部です)。イラストも自作で、江戸川乱歩の世界観がよく表されている作品ができあがりました。
(2) やさしい日本語リライトプロジェクト
3年生の日本語教育ゼミでは、国内外で日本語を勉強中の子どもたちに向けて、国語教科書の単元や絵本をやさしい日本語に書き換えるプロジェクトを行いました。例えば、あるグループは、古典作品として教科書に取り上げられている「伊勢物語」から、「芥川」の単元の「やさしい日本語」への書き換えに取り組みました(写真はリライト作品の一部です)。
完成したリライト作品は、宮城学院高校の留学生にプレゼントし、フィードバックをもらうオンライン交流会も行いました。
また、あるグループでは城西国際大学の日韓翻訳クラスとのコラボレーションで、韓国絵本の翻訳をもとに「やさしい日本語」へのリライトを行いました。さらに、城西国際大学の学生と協働でオンライン読み聞かせ会を開催し、①韓国語版 ②母語話者向け日本語版 ③やさしい日本語版の3つのバージョンの絵本を準備し、読み聞かせを行いました。日本から2組、韓国から2組の親子が参加してくださり、聞きたいバージョンを選んでいただき、絵本の世界を楽しんでいただきました。絵本の作者、山極尊子さん親子も参加してくださったのですが、「絵本の世界観を崩さない翻訳が素晴らしい」と大変励みになるコメントをいただきました。韓国側の参加者からは「日本語に触れられる貴重な機会。ぜひ継続して行ってほしい」というリクエストもいただきました。今後、海外で日本語を学ぶ子どもや、外国につながりのある子どもたちに向けて、やさしい日本語を含めた多言語オンライン読み聞かせ会が開催できればと考えています。
実際に「やさしい日本語」に書き換えるのは、なかなか大変な作業です。もともとの作品の世界観を壊さず、伝えたい内容をわかりやすく書き換える方法には正解がありません。しかし、読み手を想像しながら一つ一つの言葉に丁寧に向き合っていく作業そのものが、深いことばの学びにつながります。日本語教員養成課程の授業では、日本語教育を学びながら培える日本語を調整するスキルやマインドをどのように社会の中で活かしていけるか、これからも考え続けていきたいと思います。