「万葉びとになる―天平装束着衣実演―」を開催しました

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5月22日、しばらく続いていた季節に似つかわしくない肌寒さから一転して、初夏を思わせるような美しく晴れ渡った青空のもと、古都奈良より上野誠先生(奈良大学文学部国文学科教授)と山口千代子先生(服飾研究家)をお迎えし、日本文学科・日本文学会共催「万葉びとになる―天平装束着衣実演―」を開催いたしました。

飛鳥・奈良時代の文化は1300年の時を経てなお、現代にも脈々と受け継がれております。山口千代子先生が様々な資料に基づき復元を試みられている衣装を、モデルに選ばれた学生7名が実際に着用し、当時の文化・ファッションを体験しました。奈良時代、遣唐使が持ち帰った衣服は現代の洋服のルーツといえるそうです。衣服はその時代時代の特色および文化を色濃く反映し、飛躍的に発展を遂げていきます。大宝律令により律令制度が整えられ、唐風様式を模倣するようになりますが、そのことは衣服にも影響を与えます。衣服令にて細かく決められることとなり、身分や位の違いによって公服は、礼服・朝服・制服に分けられるようになりました。また、古代から身分や階級は色で表し、身分の高い順に紫、赤、緑、青と定められていましたが、この色の序列は時代によって変化したそうです。当時の染色技術は素晴らしく、複雑かつ美しい配色と、実に色鮮やかな衣服が多かったということです。

山口先生のお話を、実際に当時の衣装を身に纏った学生たちを憧れの眼差しで見やりながら、とても楽しく拝聴することができました。山口先生は、平安時代に 比べ奈良時代の衣装はあまり知られていないことを残念に思い、なぜ広く知れ渡っていないのか、これはぜひ皆さんに知ってもらいたい、という思いから衣装を 製作し続けてらっしゃるそうです。先生のその思いを、わたしたちは理解することができたように思います。

そして、上野先生のご登場となりました。もう一度モデルの学生達に壇上に上がってもらいながら、上野先生のご講演が始まりました。『竹取物語』、『伊勢物語』、そして『源氏物語』と、様々な古典文学作品を引用しつつ、先生の巧みで軽快な話術にわたしたちはグングン引き込まれていきました。一言たりとも聞き逃してはいけない、まさにそのような焦燥感に襲われたのも事実です。それほど、上野先生のお話はわたしたちを魅了してやみませんでした。

古代宮廷服は袖が長く、それは偉い人、身分が高い人に対し素肌を見せるのが失礼に値するためだったそうです。その一方で、その長い袖を愛する人に向けてひらひらと揺れるように振ることは感情表現のひとつだったそうです。実際に、モデルの学生が実演してみせましたが、山口先生の美しい衣装と相まって、当時の人々の奥ゆかしいながらにも大胆さも感じられる感情表現に魅せられました。上野先生からは、古典文学作品を読む際に「袖」が出てきたら、注意して読むと良いというアドバイスを頂きました。

その後、上野先生の粋なはからいにより、モデルの学生達が観客席を歩いて回りました。壇上とは異なる、観客席から同じ高さで見る衣装。思わず手を伸ばし触れてしまうような繊細で華やかな衣装。より近くで見たいと、身を乗り出してしまった人もおりました。モデル達が歩く様子はさながら天平行列のようで、大学講堂にふと差し込んだ明かりに照らされたその姿は、神々しくこの世のものとは思えませんでした。

今回、上野先生と山口先生、そして山口先生のお弟子さんの石井先生をお招きしての日本文学科・日本文学会特別企画は、大盛況のうちに終わりの時を迎えました。最後も上野先生のご提案で写真撮影大会となりました。今まで緊張していて表情を崩さなかったモデルの学生達の、ほっとしたような安堵の表情が見る見るうちに笑顔に変わっていくその様子に、今回の特別企画が大成功に終わったことが如実に表れておりました。

上野先生、山口先生、石井先生、そして学内および学外からお集まりいただいた皆様、本当にありがとうございました。