【備忘録 思索の扉】第三十五回 MGUスタンダード「日本語演習」ー読み手や聞き手を意識することー

MGUスタンダード「日本語演習」ー読み手や聞き手を意識することー

1年次に開講されている全学必修のMGUスタンダード科目「日本語演習」を紹介します。「日本語演習」のシラバスは共通ですが、各クラスの担当教員によって個性あふれる授業が展開されています。国語の知識を前提にした敬語やメール文作成といった実用的な内容のみならず、読解力や文章表現のトレーニングを通して、プレゼンテーションやディスカッションも含めたプロジェクト学習を行うクラスもあります。

私の授業では、前半にクラスメイトへのインタビューを通して他己紹介を行うプロジェクト学習が、後半では「わたしの宝物」・「わたしの好きな場所」というテーマのエッセイを作成する課題があります。どちらも読み手や聞き手を唸らせる文章表現とはどのようなものか、主題の捉え方、構成法、叙述や描写の仕方、適切な文法作法等を学びながら、口頭表現も含めて多面的に学修します。1年次には就職活動はまだまだ先のことですが、エントリーシートや面接にも繋がっていくタスクでもあります。

さて、「読み手や聞き手を唸らせる」とはどういうことでしょうか。例えば、読み手が思わずにっこりしてしまう、しんみりした気分になる、幸せな思いに浸れる、または、共感してわかってもらう、などなど、書き手自身が「ねらい」を定めて表現するということです。他己紹介での他者(クラスメイト)との対話の経験を通して、成功したこととうまくいかなかったことを振り返り、最終課題のエッセイでは自己に向き合い、自己と対話をするナラティブ(Narrative)の課題になります。

以下は、まるで映像を見ているかのような書きぶりに、私が唸った作品2点です。ぜひ、お読みください。

早矢仕智子

 

年季もの (テーマ:わたしの宝物)

私には長く使っているキーホルダーがある。このキーホルダーは、鍵を引っ張ると糸が出てくるタイプのもので、デフォルメされたクラゲのイラストがついている。家族で旅行に行った際、水族館で親に買って貰ったものだ。

私はこの新生活が始まる春、このキーホルダーを替えたいと思った。12年のも間ずっと使っていたし、ついているイラストが幼いと感じたからだった。自分で雑貨店などに探しに行ったり、親に良い替わりになるキーホルダーが無いか相談したりもした。でも、結局良いものは見つからなかった。

大学での授業が本格的に始まり、寮での生活にも慣れてきた。部屋の前でいつものように鍵を掴んで、糸を引っ張ろうとした、その時だった。糸が切れてしまっていた。私は糸が切れて、手元に残った鍵を見て、しばらく固まった。胸にぽっかり穴が開いたような感覚がした。いつもすぐそばにあると考えていたものが、突然無くなった。

大切なものは失ってから気づくということを初めて体験した出来事だった。

(A子)

 

帰る場所 (テーマ:わたしの好きな場所)

わたしの家の玄関は、ただ人が出入りする場所ではなく家族の憩いの場でもある。玄関には麦という名前の大きな犬がいる。父は仕事の疲れを癒しに、母は家事の合間に、私は辛いことがあったときに、玄関へ行く。

麦は今まで見てきたどの犬よりも元気で、温厚で明るい。私が10歳の時に飼い始め、一緒に育ったので弟のような存在だ。いつでも舌を出してハッハッと笑っているような表情を見せる。撫でるとうれしくなってぐるぐると回りだし、しまいには大きくジャンプする。リビングに放すと興奮しすぎて走り回りだすので玄関で飼われているのだ。

そんな麦でも、大人しいときがあった。一昨年の夏、私が失恋して麦にすがって一日中泣いていたときがあった。麦は母犬のように静かにただ横で座っていてくれた。その時は気づかなかったけれど、今思うと麦は私の気持ちを汲み取ってくれたのだ。麦は何も考えていないように見えるけれど、少し肌寒い玄関で、いつでも私たちに寄り添ってくれている。長生きしてほしい。           (B子)

MGの桜