【備忘録 思索の扉】第二三回 中世ドイツの笑いの性格(11)~ドラえもんと古城を買いに~

wolfsburg schloss turm修正前回はドイツの城のことを取り上げましたが、これを読んで、「あれ、確か『ドラえもん』にもドイツの古城を見に行く話が無かった?」と思った人がいるかも知れません。その話、確かにあります。「ゆうれい城へ引っこし」(1976年)ですね。

ストーリーはこうです。のび太の両親は脱・借家暮らしを考えていますが、準備できる資金は最大1千万円とあって、なかなか良い物件が見つかりません。そこへドラえもん、「ドイツでは城を買うことができるよ」とのび太に教えます。ちょうど売りに出されているミュンヒハウゼン城は値段が1千万円だと知り、2人はどこでもドアを通って城の下見へ。その結果、彼らは城の持ち主であるロッテという女性、城内に隠されている財宝を狙うロッテの叔父、はては甲冑姿の騎士の幽霊(?)に出会うことになります。怪談の要素やサスペンスを盛り込んだこの話は、ファンの間でもなかなか評価が高く、「大長編にしてもいいのでは」と推す声もあるのだとか。

「ミュンヒハウゼン城」という城は実在しませんが、城が買えるという話は本当です。論より証拠、Castleist.comという英文サイトをご覧下さい。ヨーロッパ各地の古城を扱った不動産紹介サイトです。これを見れば、どのような城がいくらで購入可能か、どの業者にコンタクトすべきかが一目で分かります。

ページ上にある「Castles for Sale」欄に行き、「Germany」をクリックしてみましょう。美しいドイツの城の写真がズラリと出て来ますが、これは全て売り物です。

こんな物件があります。「ラインラント・プファルツ地方。14世紀中期の山城。価格270万ユーロ。リノベーション済み。個人宅としても、小ホテルやケータリングビジネスにも利用可能。執事・スタッフ・客のための居住空間が別にあります。主塔の廃墟でロマンチックな気分を。」 すでに世界が違いますね。城の「リノベーション」ってどんなものでしょうか。浴槽の取り換えとか収納スペース増とか、そういうレベルのものではないことは確かです。

もう1つ。「ラインラント・プファルツ地方、ザウエルブルク城。290万ユーロ。世界遺産のライン渓谷を見下ろす山城です。1120年にまで遡る歴史。近代的なホテル設備を備えていますが、大広間、地下倉、中庭、礼拝堂もあり。客室にはISDN回線、LAN回線、TV完備。3つのセミナールームと1つの会議室があり、ビジネスにも利用可。結婚式のレセプション、中世祭り、気球の出発にもよし。」 これならすぐにホテルとして営業可能です。

それにしても、歴史ある建造物を商売のために改造していいものなのか。その参考になるのが、この物件です。「フィートゲスト、1792年-94年建設の城館。150万ユーロ。バロックホール以外は史跡保護の指定外なので改装可能。」 つまりこの館の場合、内装が歴史的に貴重な広間は保護の対象ですが、それ以外の場所は法的規制が無いというのです。外観は変更不可能であることが普通ですが、内部は保護指定の有無によりけりということになります。しかし、中には歴史にこだわる買い手もいることは確か。そこで、次のような物件も出て来るのです。「ニーダーザクセン州、ヴェーザー・ルネサンス様式の城館、1579年建設。114万ユーロ。内部は自由に改装してもよし、本来の姿に修復するのもよし。」

思わず「???」となった物件はこれ。「北バイエルン、ウンターフランケン地方、マイン川をのぞむ村の丘にある城。200万ユーロ。近くにヴュルツブルク・シュヴァインフルト・バンベルクへの鉄道あり。最寄り駅まで1キロ。」 「駅に近いって、城に住みながら電車通勤!?」と思ってしまいましたが、これはつまり観光客のアクセスがいい場所だということでしょう。庶民の身では、ついアパートを探すのと同じ視点で情報を見てしまいます。

何はともあれ、しばし大富豪になったつもりでこのサイトを見るのも一興ですね。果たして、これらの城にはドラえもんの話のように怪談もあるのか。その辺りは、サイトには何も書かれていないです。

栗原健・キリスト教学