生活文化デザイン学科 教授 本間義規

生活文化デザイン学科の本間義規(ほんまよしのり)です。

建築環境学を専門としています。授業では,建築環境学や建築設備,住生活環境論や建築サステナブルデザイン論などを担当しています。

建築環境学は,建築物の暖かさや涼しさ,空気環境,光環境・音環境のコントロールを対象とする学問分野です。ただ制御するだけではなく,より省エネルギーでより快適に,より手間のかからない方法が求められます。そのためには,設計段階で,熱や湿気,空気の流れや光・音などをデザインする環境設計が求められます。最近では,ZEB(Zero Energy Building)やZEH(Zero Energy House)という,エネルギー収支をゼロにする建築・住宅の推進が国を中心に積極的に進められていますが,その理論的バックボーンとなるのが建築環境学でもあります。特別なことをしなくても暑くもなく寒くもない,というのが理想の設計ですが,なかなかそうもいきません。効果的,効率的な設備を利用することも必要になります。

建築環境学の技術を,学内で活用したエピソードを紹介します。大学講堂に1000名を超える学生や来賓が集まり,合唱発表会を行う場面がありました。その実施に際し,担当の先生から相談を受けました。講堂には冷房装置がなく,その暑さ対策の相談です。既存施設ですので,大掛かりな設備を導入するわけにもいきません。また合唱発表会ですので,騒々しい装置も使えません。

そこでゼミの学生たちと検討し,冷凍ペットボトルを利用して冷房する計画を立てました。水は氷に相変化する際に多くのエネルギーが必要となりますが,逆に,氷から水に変化するときにも周囲から多くの熱を奪ってくれます。また,除湿もしてくれます。

さて,氷ペットボトルを利用して冷房するためには,その装置容量を設計しなくてはなりません。そこで,建物の性能や外気温,日射,利用人数などを実際に近い形で想定してシミュレーションを行いました。その結果が図1です。

計算の結果,何もしなければ,最大で9℃程度,冷凍ペットボトルなどを利用して冷房を行えば,温度上昇幅を7℃程度に抑えることが可能であることがわかりました。この予測をもとに,実際にペットボトルを凍らせ,台にセッティングした様子が写真1です。映写室下に約450本,側面の入口に約150本ずつ,計750本程度を設置しました。

14時くらいから徐々に学生や父兄が集まりはじめ,15時から発表会がスタート。そのタイミングで冷凍ペットボトルを並べます。会場内に設置した温度記録装置のデータを図2に示します。冷凍ペットボトル装置に近い最後列は,開始後22~23℃くらいまで下がり,17:30発表会終了時で26℃程度と良好な環境が保てました。しかし,観客席の真ん中あたりでは,ピークで30℃に達し,かなり蒸し暑い環境になってしまいました。結果としては,予測よりも温度上昇しなかったのですが,開始時点の温度が25℃と高かったため,30℃近くになってしまったのは少し残念です。

建築環境学を応用すると,快適な空間,不快でない空間をどのように手に入れるかがわかるようになります。是非,みなさんも一緒に学んでみましょう。