第2回保育ソーシャルワーク公開研究会「保育所・保育園が持つべき連携のあり方を探る~保育ソーシャルワークの視点から~」が開催されました。

保育所・保育園で子どもと接する保育者にはソーシャルワークの視点での専門的なかかわりが求められるようになってきています。このような背景を踏まえ、宮城学院女子大学発達科学研究所では、保育現場でのソーシャルワークのあり方を取り上げる第2回研究会を、去る2017年12月16日(土)に開催いたしました。年の瀬の押し詰まった中ではありましたが、一般参加者43名、学生参加者48名、計91名と大変盛況な研究会を開催することができました。

今回の研究会では基調講演に、「保育者だからできるソーシャルワーク」という本を出版なさった保育経験20年のベテラン保育士である倉内惠里子氏をお迎えしました。

倉内氏の著書「保育者だからできるソーシャルワーク」では、保育ソーシャルワークの実践を①コミュニケーション力、②アセスメント力、③問題解決力、④アウトリーチ、⑤自己肯定感という5つの力に整理されています。ご講演でも、この5つの力の整理のもとに、それぞれの力について具体的な実践事例を挙げながらお話しくださいました。

hoiku1(基調講演全体写真)

子どもからの電話でSOSをキャッチし、とるものもとりあえず家庭訪問した話、嫁姑の対立が子どもの言動に影響していることを察知し間に入って働きかけた話、スマホ依存の母親にしつこくコミュニケーションを取ってついに目を合わせて笑い合える事件が起きた話など…ユーモアあふれる穏やかな語り口に、もっともっと聞きたいと思わせられる基調講演でした。

続くシンポジウムは「子どもと家族を支援する機関と保育所・保育園の連携のあり方を考える」として、国見ケ丘せんだんの杜保育園園長金野 純恵氏(保育士)、多賀城市鶴ケ谷保育所 副主任久道 ふぢの氏(保育士)、仙台市太白区家庭健康課 母子保健係佐野 ゆり氏(保健師)、仙台市児童相談所児童福祉司黒須 沙織氏(社会福祉士・保育士・幼稚園教諭 )にご登壇いただき、それぞれの現場で直面している課題や象徴的な事例、求められる連携のあり方について問題提起をいただきました。進行役は、宮城学院女子大学発達科学研究所長 熊坂 聡教授が努めました。

kumasaka2(熊坂教授写真)

まず金野氏から、母親の精神不安定から登園が安定しない母子に対して、多機関や地域のボランティア・児童民生委員などの多様なかかわりで支援体制を構築した事例をもとに、当事者の支援を最優先にした連携の重要性をお話しいただきました。続いて行政保育士の久道氏からは、多賀城市の子育て環境の変化についてデータをお示しいただいたのちに、システマティックな連携を実現するための取り組みとして、保育所を支援する機能を持たせた基幹保育所や、多様な会議体を作ることなど、多賀城市の保育現場の連携の仕組みづくりをご紹介いただきました。また保健師である佐野氏からは、転入者の母子支援事例をご紹介いただきました。他県ですでに要支援と判断されており、情報共有をもとに家庭訪問を行い、アセスメントをもとに保健師・心理判定員・栄養士など多職種・多機関連携による支援が実現できている事例でした。最後に黒須氏からは、保育所から児童相談所に連絡が入ったことがきっかけで介入・支援につながった事例のご紹介を通じて、子どもの異変に気づいた場合の児童相談所との連携プロセスをご説明いただきました。また黒須氏が宮城学院女子大学卒業生ということもあり、在学生へのメッセージとして、保育者が専門性を高めていく大切さについてもお話しいただきました。

 

konno1 hisamichi1

sano1resize

kurosu1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(金野氏写真 左上)

(久道氏写真 右上)

(佐野氏写真 左下)

(黒須氏写真 右下)

 

4名のシンポジストからのご発言の後、長命ヶ丘保育所 所長 柿崎典子氏と倉内惠里子氏より、保育現場における連携の必要性や保育の専門性の向上について、また、保育所の中で普段行っている親子へのかかわりが保育ソーシャルワークにつながっており、意識しなくても、保育者の実践の中にソーシャルワークの要素が含まれているのだとまとめていただきました。3時間半という長い時間であり、また、子どもたちを取り巻く厳しい環境が示されるような事例報告もありましたが、登壇者の人柄や雰囲気を反映した、終始和やかな研究会となりました。

kakizaki1

kurauchi2

 

 

 

 

 

 

(柿崎氏写真 左)

(倉内氏写真 右)

 

参加者からのアンケートでは、「『ソーシャルワーク』という言葉が大きかったのですが、これからも子ども達のために保育という仕事に誇りと自信を持っていきたい。」「一番は、子どもにとってよりよい環境を作るためにも関係機関との協力が重要で、現場の人間としては最も大切にしていかなければいけないと再確認した。」「保育所の現状にそったソーシャルワークの展開がわかりやすく、連携についてもより具体的な内容でした。」「それぞれの機関の役割を知ることが不足していたと気づくことができました。」などの声を寄せていただきました。

現場の保育者にとって実践的で元気が出る公開研究会であったとの声は、主催者としてとてもうれしいものでした。宮城学院女子大学発達科学研究所では引き続き、現場の臨床家にとって有益な情報発信が行える場を作っていきたいと考えています。

宮城学院女子大学発達科学研究所