亘理りんごプロジェクト 活動報告

大学院 健康栄養学研究科1年 小岩恵子・柴生彩

 リンゴプロジェクトは、被災した地域を再発見することと、プロジェクト型の保育を実現することを目的に、保育所の保育士、本学学生・院生・教員が立ち上げたプロジェクトです。本プロジェクトは、イタリアのレッジョ・エミリアのプロジェクト型保育をヒントとして、「感じる」「学ぶ」「表現する」という3つをプロジェクトの柱とし、亘理町の特産品であるリンゴを教材として、子どもの興味関心に寄り添えるようなカリキュラムをデザインしました。

 亘理町は、東日本大震災で甚大な津波被害があった地域で、現在も仮設住宅で暮らしている方々が多くいます。亘理町の中でも、荒浜地区や吉田地区の保育所は、仮設施設で保育を行っています。本年度のプロジェクトは、こうした背景から、被災した亘理町の復興をサポートするという意味合いも含め、昨年に引き続き本学の院生を主体とし、他学科にも参加者を募り活動しました。

 

本年度は、11月末から活動を開始し、保育所での実際の活動は12月に入ってから全4回の工程で行いました。プロジェクトの内容として、第1回目は“はてな”探しをキーワードにリンゴへの関心を深めていきました。子どもたちから出された“はてな”は「なんでぼつぼつがあるの?」「なんで赤いリンゴなのに黄色いところがあるの?」「なんでべたべたするの?」といったものでした。そして、この出た“はてな”はリンゴの形をしたカードに書き、事前に作成していた木に貼りつけみんなで“はてな”の木を創りました。第2回目は“はてな”を抱いた状態でリンゴ園に行き、リンゴ狩りやリンゴ園の方に話を聴きました。この経験を通して、リンゴのなり方や枝や葉の付き方、育て方など市販のリンゴを見ただけではわからないことに子どもたち自身が気付き、新たな“はてな”を見つけることができました。具体的には、リンゴを見て、切って、食べていく中で「蜜のところはもっと甘い」「中は星の形」「さくさくする」などが挙げられ、さらなる興味を引き出すことへと繋がりました。

 第3回と第4回では、講師の先生をお招きし、臨床美術の手法に沿って“私だけの”リンゴを描きました。そのリンゴの絵を大きな紙に貼りつけ、一枚の“みんなの”リンゴの絵を完成させました。そして最後に1人ひとりの絵を全員で鑑賞し、講師の先生に講評していただきました。先生には1人ひとりの絵を「この背景のところに貼ったのがかっこいいね!」「このリンゴは太陽にいっぱい当たった感じが出ていていいね!」「このリンゴは重量感があるね!」等、“全体”としてと“個”としての両面から位置づけるような講評をいただきました。講評を受け、子どもたちなりに言葉を引き取ることによって、自分は褒められ、認められているのだという嬉しそうな表情が見られました。このような経験は、自分の自信に繋がり、他者を認めることにも繋がるのではないかと感じました。

 

今回のプロジェクトを通して得たことは、大きく分けて2点あります。

 1点目は、子どもたちの発想力や創造力は無限であり、その様も多様であるということです。第1回でリンゴの“はてな”探しをしましたが、子どもたちは自分たちの視点でリンゴを捉え、大人では気付かないような新たな発想を私たちに示唆してくれました。また、絵を描くという工程では、1人ひとりがそれぞれに感じ取ったリンゴを描くことで他にはない“私だけの”リンゴを描く様子が見てとれました。初めは周囲を見ながら描いていた子どもも、次第に目の前にある自分のリンゴに集中していき、大きさや色や形などの個性が出せているようでした。それは講師の先生や諸先生方の働きかけ、私たちからの声掛けによって、他者と違っていいのだということに気付いたからであると考えます。

 2点目は、リンゴの絵の鑑賞を通して、ひとつとして同じリンゴはないという多様性に気付き、互いに認め合う姿勢を育むことができたということです。子どもたちは講師の先生からの講評を聴く中で、自己だけではなく他者の描いた絵の独自性や良さというものを感じ取っている様子を表情や言動から見ることができました。

 今年度は2年目の活動でしたが、子どもたちの様子は昨年と同じというわけではなく、それぞれに個があり、気付きや表現の仕方は多様であると再認識しました。そのため、このような子どもの創造性や可能性に寄り添った保育実践というのは、自己を認め、他者を認めることができ、共生の心を育む良いきっかけとなるプロジェクトであると感じました。