【備忘録 思索の扉】第二七回 「 女性の未来をひらく」(前編)~女性と人権 2024~

緊迫する世界―「人間の復興」へ

年の初め、大手新聞数紙を読み比べた。各新聞がどのような論点を取り上げるか、紙媒体でじっくり読みたいと思った。1月1日、全国紙三紙の社説はいずれも世界情勢を受けて紛争を取り上げた。「紛争多発の時代に 暴力を許さぬ 関心と関与を」(朝日)、「磁力と発信力を向上させたい 平和、自由、人道で新時代開け」(読売)、「人類の危機克服に英知を」(毎日)の見出しで、平和への貢献を共通認識するものであった。日経新聞も「分断回避に対話の努力を続けよう」と記した。

河北新報(本社 仙台市)の1月1日「社説」は「緊迫の年明け」のタイトルで、世界の紛争にふれつつ独自の視点を打ち出した。3.11の東日本大震災をふまえ、経済社会理論家J.リフキンの近著「レジリエンスの時代」を引きながら、地球規模での転換期を説いた。欲望の肥大化と効率追求の「進歩の時代」から、自然の収奪・支配を脱却して地球に適応し共存する時代への転換、そこに地方都市や農村部ならではの「生態系の回復と文明の再構築」を示唆する、読み応えある記事だった。おりしもその日の夕方、能登半島を中心に日本が揺れた(天童睦子 2024.1.17「人間の復興 道を開いて」河北新報朝刊 「紙面センサー」より)。

同日の毎日新聞の「社説」も「今こそ、「国家中心」から「人間中心」の視座に転換しなければならない。「すべての人の権利」保護をうたった75年前の世界人権宣言の精神に立ち返る時である」と記している。

「人間中心」の視座は、『災害女性学をつくる』(浅野富美枝・天童睦子共編著 2021 生活思想社)で提起した「人間の復興」とも通じるものである。本学の「ライフワーク論」最終講義で「災害女性学」を取り上げた。学生の感想では、能登半島地震を「自分事」に引き寄せたコメントも多く、災害時・非常時にこそ「人権アプローチ」を、人としての尊厳の保障とジェンダー平等をとのメッセージは学生たちに届いた様子だ。

 

ジェンダー視点で学ぶ「女性と人権」

「すべての人の権利」を振り返るとき、そこにどれだけ女性が含まれているか、ジェンダーの視点、歴史性と国際性の視点から考える。これが本学(宮城学院女子大学)の1年次必修科目「女性と人権」1回目の授業のポイントである。

本学では2015年のカリキュラム改正以来、女性学women’s studies、ジェンダー研究gender studiesを全学生が学んでいる。すでに「女性と人権」受講生は六千数百名を超えた。女性学的想像力(天童『女性・人権・生きること』 2017 学文社)で、卒業後の彼女たち一人一人が困難を乗り越え、また社会経験を経て、再びジェンダー平等を考え学び、実践するチャンスがあることを願う。

ジェンダーとは「社会的・文化的につくられた性別」を意味する。元々、言語学の文法用語として名詞の性別を表すgenderに、社会的に構築された性の意味を与えることによって、私たちは固定化した性役割を問い、社会における男女間の不平等を見極める視点を得た。いわばジェンダーは、普段は見えにくい政治・経済・社会の諸領域や文化的教育的な営みに潜む「隠れた不均衡」を照らし出す光の視点である。

 

「女性と人権」日本の新動向

近年、日本では女性支援にかかわる法律で変化がある。2023年7月に「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」に変更され、施行された。「不同意性交罪」により、同意のない性的行為は犯罪であると明確化され、処罰要件も大幅に見直された。その背景には被害者の切実な声があった。法律が性被害の実態にあっていないとの指摘、被害者自身の活動と支援者の輪が広がるなかで、刑法改正という重い扉が開いたといえる。

2024年4月には「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行される。女性に対する暴力、貧困、社会的孤立など、女性をめぐる課題が複雑化するなか、基本理念に人権の擁護と男女平等の実現との文言が盛り込まれた同法は、「女性が尊厳と誇りをもって生きられる社会の実現」に向けて、国、地方自治体、民間団体の「協働」による支援体制が企図される。このような支援法が実効性を発揮するには、人々の規範意識やジェンダー意識のアップデートが必要だ。

ジェンダー平等を社会の「常識知」にしよう。地域に根ざす大学は、社会に開かれた知の伝達を行う資源を持っている。未来志向の議論を市民協働で進めよう。

(つづく)

(天童睦子 女性学・ジェンダー論)