「天に栄え、地に平和」と宮城学院の校歌は歌い出します。この歌詞の背景には『聖書』の一節があります。「いと高き所には栄光、神にあれ 地には平和、御心に適う人にあれ」(ルカによる福音書2章14節)。イエス・キリストが地上に到来したクリスマスの夜、天使が羊飼いたちへ救い主キリストの誕生を告げた際の言葉です。「天にいます神の栄光が輝き、地上に届けられるとき、それは『平和』という形になって現われた」つまりイエス・キリストの到来、クリスマスの出来事は、真 の平和が地上にもたらされるためであったと『聖書』は語ります。
ところで『聖書』が「平和」というとき、それは単に戦争がないという状態だけを意味しません。もっと幅広い概念で「すべての命がかけがえなく生き生きとしている状態」「この世界で命を抑圧し、命を奪おうとするすべてのものが廃絶された様子」を指しています。こうした聖書の平和理解は、ヘブライ語で「シャローム」と呼ばれます。『聖書』そしてキリスト教の平和理解は、現代社会における「構造的暴力」の廃絶と、それによる「積極的平和」の実現という課題へ密接に関連しています。
宮城学院女子大学でのカリキュラムには、全学科の学生が共通で履修するリベラルアーツ科目群があります。その中の一つ「リベラルアーツ総合A(平和)」という科目を私は担当しています。授業では履修学生一人ひとりが、自らの周囲にある「構造的暴力」を発見し、さらにその廃絶に向けて自身が主体的に何をできるかについて探究し、「アクションプラン」を作成していくという課題へ皆で力を合わせて取り組んでいます。
校歌で歌われる「天に栄え、地に平和」、また建学の精神「人類の福祉と世界の平和に貢献する」。これらを現代における共生社会形成につながる課題として捉え、具現化していく。学科を超えた履修学生がグループワークやペアワークを重ねながら相互批評し、ジェンダー不平等やマイクロアグレッションといった社会課題を克服するアクションプランを作成していく。クリスマスの「平和」が将来の世界へ実現していく希望の道筋を、学びの中で共に探究しています。
(松本周 キリスト教社会倫理学・宗教学)