人間文化学科教授 高橋英博

 

「言葉」と社会学

わたしたちは、会話をするときのほか、いろんなことを表わしたり伝えたり残したりするときにも「言葉」を用います。そのようなことをするのは「人」だけです。でも、自然や社会のなかには、じつのところ、これまで誰にも見えなかったり気づかなかったりする「言葉」もたくさん埋もれています。
古今東西の先学たちは、そうした「言葉」を掘り起こしたり、自然や社会のこれまでにはなかったような出来事を前にして、そこから、それにふさわしい新しい「言葉」を引き出してきたのだとみなすこともできます。そして、その「言葉」の下には、互いにかかわりあう大小さまざまな別の「言葉」の体系が広がっています。そうした体系をつくるのは大変だったかもしれませんが、とてもわくわくする面白さに満ちたものでもあったことでしょう。   
                 
「社会学」にも、これと似たようなところがあります。ここでは、写真に見るように、しばらく前からとてもおしゃれになってきた仙台の「まちなか」のゼミ調査を例にして、その面白さのほんの一端をお伝えすることにしましょう。

 

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ゼミ生とのフィールドワーク

さっきの写真のうちの三つめは、ゼミ生と「まちなか」を観察しているときのものです。するとそこには、(1)ブランドやファッションをはじめとする「オシャレビジネス」にかかわる店、(2)ヘアサロンやエステやリフレといった「カラダビジネス」にかかわる店、(3)フィットネスや英会話やダンスなどの「集まりのビジネス」にかかわる店がたくさんあるほかに、(4)ミュージカルやライブやコンサートのほか、ベガルタや楽天などの「感動一体ビジネス」にもたくさんの人が集まっていることが分かりました。                                 

ここで「 」(かっこ)に入れたようなビジネスは、食品や日用品といった「くらし消費」にまつわるものというよりは、人々が「わたしらしさ」をゲットしようとする、いわば「わたし消費」といってもよさそうな類のものたちです。「わたし消費」には、このほかにもいろんなタイプがありそうです。そして、とくに大都市の「まちなか」には、そうしたショップやサービスがたくさん集まっています。
「くらし消費」はというと、大型SCが、街をぐるっと取りまくように連なっています。このように、「くらし消費」は郊外に、「わたし消費」は「まちなか」に、というふうに分かれているのが、とっくに当たり前のようになってきました。

この写真は、ゼミ生がNPO法人を訪ね、その活動について教えていただいているところです。もう一つは、とある産地直売所を訪ねて、みんなでお話を伺っているところです。とてもわかりやすく話してくれて、ノリのいい理事長さんも写っています。 

同じようにして、仙台の「まちなか」にある6つの商店街組合のほか、あちこちを訪ねていろいろ教えていただくとともに、たくさんの資料をもらってきました。
すると、さきほど見たような「わたし消費」に属するタイプの店がどのくらいあるのか、その経営をやっているのはどこの会社なのか、そして、こうした店が増えてくるのはいつころからで、その前にはどんな店が多かったのか、などを詳しく知ることができました。
さらに、週末では、この「まちなか」に来る人たちのほぼ三分の一が県外から、そして、県内から来る人たちを足すと全体の6割近くが仙台の外からの人たちだ、ということも分かりました。

つぎは、「ベガルタ仙台」と「みちのくYOSAKOI」の写真です。このほかにも、仙台にはいろんなプロスポーツやイベントがあります。ゼミでは、それらの会社や事務局を訪ねて、さまざまなことを教えていただきました。 
そこから、こうしたプロスポーツや都市イベントは、街にたくさんの楽しみや賑わいをもたらしてくれるだけでなく、それらが、遠く国内のあちこちから仙台の「まちなか」に人々を連れてくる磁石のような働きをもっていることが分かりました。そして、シティセールスや都市イメージやフィルムコミッションも、あるいはネット発信やフリーペーパーなども、それらに携わっている人たちにお話を伺ってみると、やはり同じようなことが当てはまると分かりました。  

「言葉」を掘り起こすということ

さて、この写真は、夏に行ったゼミ合宿の一コマです。夕食のときに撮ってもらったものですが、朝から夜まで、しっかりと勉強してきました。大学でのゼミのほか、たまにはこのような合宿をして、フィールドワークをとおして集めたたくさんのデータの分析と考察、そしてここでは述べませんでしたが、さまざまなアンケート調査の結果の分析、そしてディスカッションをくり返します。そこから、仙台のような大都市の「まちなか」は、おおまかにいって、さきほど見たような「わたし消費」を促すカラクリにあふれているとともに、県外などの遠くからも人々を引き寄せる「消費と集客の装置」としての特徴を日に日に大きくしている、という結論にたどり着くことができました。

この結論については、写真にあるような二つの本を刊行しています。左はかなり大きな学術書になりましたし、右は、その姉妹本です。2006年に卒業していった25人のゼミ生との共同の成果です。わたしがいうのもなんですが、とってもよく仕上がっています。カバーも副手さんのデザインによるもので、これも大好きです。わたしは、いわばメイドインMG(宮城学院)とでもいえるこの本を、とても誇らしく思っています。

 

 

 

ところで、これらの本のなかでは、「くらし消費」や「わたし消費」、「集まりの消費」や「感動一体ビジネス」、そして「消費集客装置としての都市」などといった、これまであまり聞いたことがないようないくつかの「言葉」が活躍しています。それらは、大きく変わってきた仙台の「まちなか」に新しく芽生えてはきたけれど、まだ土のなかに埋もれていて、これまでちゃんと掘り起こされていなかった「言葉」だとみなすこともできます。

もちろん、これはただの言葉アソビではなく、フィールドワークをして集めたたくさんのデータに裏づけられた一人前の「言葉」たちです。そして、このように「言葉」を掘り起こしながらまとまった体系にしていくのは、しんどいところもありますが、とってもわくわくする営みです。

 

来たれ、大学へ!!

このほかにも、わたしが進めている研究テーマはいくつかあります。ここではちゃんと伝えられませんが、「社会学」というのは、大きなジャングルのようなものです。どこか得体が知れなくて入りにくかったりしますが、よく近づいてみると、やりようによっては、わくわく感にあふれたダイナミックな学問です。フィールドワークにしても、いろいろな人にお会いできるチャンスになりますし、みなさんが社会に出てからのことを考えても、ためになることは請け合いです。

「社会学」って、そして大学って、こんなふうにフツーに面白い世界でもあるのです。ここまでちょっと長めの文章におつきあいくださったみなさん、よかったらMGにきて、「社会」という現実をいっしょにフィールドワークしてみませんか。